暁 〜小説投稿サイト〜
ソードアートオンライン 無邪気な暗殺者──Innocent Assassin──
OVA
〜暗躍と進撃の円舞〜
The biter is bit
[2/4]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
の男は言葉を放つ。

「だから、《押さえつけて》るんスよ。そもそも、アイツらの言うことを叶えるのが、どれくらいのリスクなのかは、閣下だって分かるッスよね?」

「ぬ……」

スプリガンの真の狙い――――運営体によるケットシーの基礎ステータスへの下方修正(ナーフ)処置。これが為されたら最悪、アルヴヘイムの平和を構成している精緻なパワーバランスを崩す可能性すら出てくる。

今回の彼らの願いは、端から叶えられてはいけない望みだったのである。それこそ、大人げなく力で押し潰すほどに。

「とにかく、いったん本部に戻って装備を整えてから、僕達は僕達で――――っと、レンキから《リスト》が届きました」

「見せよ」

まだ完全じゃないですよ、という黒髪の言葉もおざなりに、寄越されたウインドウを一瞥する閣下。

すると。

「…………む?」

「どうされました?」

羅列された文字群の中の一点に目を止め、硬直する偉丈夫に黒髪の男は不思議そうに首を傾げる。

だが、当の男は数秒固まった後、唸るように「……なんでもない」と言った。

「《リスト》が完成したのだ。我等はこのまま向かったほうが良いのではないか?」

「いやいや、だから装備を整えて――――」

「構わん。我には《コレ》さえあれば充分だ」

言うや、ヴォルティスはアイテムウインドウを出し、己が得物である長大な両刃斧(ラビュリス)を実体化させた。ちょっとしたちゃぶ台ほどもある肉厚の刃は街灯の灯りを反射し、剣呑な輝きを放つ。

実体化しただけで皮膚が粟立つその存在感に、男二人が首を縮める。

「……閣下はソレでいいッスけど、俺達はどーするんスか?フッツーに私服しか持ってないんスけど」

「卿等は見ているだけで良い。追い込みからトドメまで、我が行おう」

ヴォルティスが一歩を踏み出す。

その足音がこれまでと全く違う怪音に聞こえ、二人の男は思わず道を譲った。

首筋が総毛立つ。

「……か、閣下。しかし、万一逃げられた時に、閣下の敏捷値(AGI)じゃ――――」

「心配いらん」

その男は笑っていた。

獰猛に、哂っていた。

「逃げる暇も与えん」










中天に架かる巨大な月が、見渡す限りの草原を海面のように青く染め上げていた。

アルヴヘイムの夜は短いものの、まだ曙光が射すまでにはずいぶん間がある。普通のプレイヤーでは、パーティー内での連携に支障をきたすとの深夜行軍だが、全種族中最も視力がいいケットシーにとって、この程度は昼間の木陰程度に感じる。

小動物(クリッター)のさざめきを切り裂くように奔る自らの相棒、《ガルム》の手綱をしっかりと握りながら、ヒスイは宙空を仰ぎ見た。
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ