暁 〜小説投稿サイト〜
ソードアートオンライン 無邪気な暗殺者──Innocent Assassin──
OVA
〜暗躍と進撃の円舞〜
The biter is bit
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の男は言葉を放つ。
「だから、《押さえつけて》るんスよ。そもそも、アイツらの言うことを叶えるのが、どれくらいのリスクなのかは、閣下だって分かるッスよね?」
「ぬ……」
スプリガンの真の狙い――――運営体によるケットシーの基礎ステータスへの
下方修正
(
ナーフ
)
処置。これが為されたら最悪、アルヴヘイムの平和を構成している精緻なパワーバランスを崩す可能性すら出てくる。
今回の彼らの願いは、端から叶えられてはいけない望みだったのである。それこそ、大人げなく力で押し潰すほどに。
「とにかく、いったん本部に戻って装備を整えてから、僕達は僕達で――――っと、レンキから《リスト》が届きました」
「見せよ」
まだ完全じゃないですよ、という黒髪の言葉もおざなりに、寄越されたウインドウを一瞥する閣下。
すると。
「…………む?」
「どうされました?」
羅列された文字群の中の一点に目を止め、硬直する偉丈夫に黒髪の男は不思議そうに首を傾げる。
だが、当の男は数秒固まった後、唸るように「……なんでもない」と言った。
「《リスト》が完成したのだ。我等はこのまま向かったほうが良いのではないか?」
「いやいや、だから装備を整えて――――」
「構わん。我には《コレ》さえあれば充分だ」
言うや、ヴォルティスはアイテムウインドウを出し、己が得物である長大な
両刃斧
(
ラビュリス
)
を実体化させた。ちょっとしたちゃぶ台ほどもある肉厚の刃は街灯の灯りを反射し、剣呑な輝きを放つ。
実体化しただけで皮膚が粟立つその存在感に、男二人が首を縮める。
「……閣下はソレでいいッスけど、俺達はどーするんスか?フッツーに私服しか持ってないんスけど」
「卿等は見ているだけで良い。追い込みからトドメまで、我が行おう」
ヴォルティスが一歩を踏み出す。
その足音がこれまでと全く違う怪音に聞こえ、二人の男は思わず道を譲った。
首筋が総毛立つ。
「……か、閣下。しかし、万一逃げられた時に、閣下の
敏捷値
(
AGI
)
じゃ――――」
「心配いらん」
その男は笑っていた。
獰猛に、哂っていた。
「逃げる暇も与えん」
中天に架かる巨大な月が、見渡す限りの草原を海面のように青く染め上げていた。
アルヴヘイムの夜は短いものの、まだ曙光が射すまでにはずいぶん間がある。普通のプレイヤーでは、パーティー内での連携に支障をきたすとの深夜行軍だが、全種族中最も視力がいいケットシーにとって、この程度は昼間の木陰程度に感じる。
小動物
(
クリッター
)
のさざめきを切り裂くように奔る自らの相棒、《ガルム》の手綱をしっかりと握りながら、ヒスイは宙空を仰ぎ見た。
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