一章 小さき魔物 - 海竜と共生する都市イストポート -
第12話 飛竜 対 海竜 (2)
[1/2]
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
一瞬、その場にいる全ての者が、固まった。
言葉を発せず、動きもせず、ただ固まり。
シーサーペントの周りで回転する水の槍だけが、時が止まっていないことを主張していた。
そしてそのわずかな時間の後――
現場は大混乱に陥った。
悲鳴をあげる者。
声すらあげられず、その場にへたり込む者。
錯乱してクロスボウでシドウを撃ち始める者もいた。
「このドラゴンは味方だから撃たないで!」
「みんな落ち着いて!」
「大丈夫! 敵じゃないから!」
その混乱を少しでも抑えるべく、ティアは集まっていた人間たちに対し、懸命に叫び回った。
「もうちょっと離れたところに避難して!」
「起き上がって! ここに座り込んでいると危ないから!」
その場で固まってしまった者や、へたり込んでしまった者に対しても避難を呼びかけていく。
巻き込まれてしまう人間が出ないよう、とにかく必死に動いた。
もちろん、彼らの安全を確保しなければという気持ちは大きい。
だがティアの中では、シドウに対する心配もそれ以上に大きく、それが焦りに拍車をかけていた。
ティアはシドウに会ってまだ日が浅い。
だが、ここまで様子を見てきて、
――シドウはあまり強くないのではないか
という疑念を抱いていた。
もちろん、戦闘力の強弱のことではない。
ティアはドラゴンの強さを細部まで把握しているわけではないが、シドウが海竜に負けるとは思っていない。その点についての懸念はない。
心配しているのは、シドウが精神的に潰れる可能性、だった。
ここまで、シドウにとっては最悪の流れになっていると言っていい。
あれやこれやと動き回って手を尽くしてみたものの、まったく思うような展開にならず、今に至ってしまっている。
事の雲行きが怪しくなってからの、シドウの表情、発する言葉、そして一つ一つの仕草。
それらがすべて、ティアにとっては危ういものに見えていた。
戦いが避けられなかったこと自体が、すでに大きなダメージとなっている可能性もあると思っていた。
今シドウは、世界最強と言われたモンスター、ドラゴンの姿となっている。
だがそれも、物理攻撃ではないほんの一押しで崩れ落ちるのではないか――そんな不安を抱いていた。
万一シドウの動きに巻き込まれて死人が出たら……。
「それは絶対に避けなきゃ」
ティアは腰が抜けている人を無理矢理立たせ、お尻を叩いていった。
* * *
「お前、何者」
しばしの間、向き合っていた海竜と飛竜。
先に口を開いたのはシーサーペントのほうだった。
「この大陸の、一番南の山のドラゴンの巣……わかります
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ