精神の奥底
66 崩れた仮面
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のかと思い込んでいた矢先のことだ。
狙いを定めていた心臓ではなく、左腕にナイフはぐさりと刺さっていたのだ。
太い血管が走っている部位ではなかったのか、血が吹き出すこともなくドクドクと流れて石畳を染め上げていく。
その状況に少年も気づいたのか、とうとう悲鳴を上げた。
「キャァァァ!!オレの!!オレの腕!!腕!!腕がぁぁぁ!!!」
その悲鳴は彩斗の耳には入らなかった。
ゆっくりとナイフを引き抜くと、立ち上がり振り返った。
そこには彩斗に恐怖の眼差しを向けるアイリスとメリー、そして七海の姿があった。
「あっ…はっ…ウワァァァァ!!!」
再び彩斗は横に振りながら絶叫し、走り去った。
「サイトくん!!」
「兄さん!!」
「沢城くん……」
彩斗はショッピングモールの敷地を抜け、近くの公園へ入った。
普段から人の出入りが少なく、今日に至っては誰ひとりとして来ている者はいない。
木々が生い茂る道を掻き分け、奥へ奥へと進んでいく。
景色はどんどん緑色の世界へと変わっていった。
周囲のビル群も視界から消え失せ、とうとうデンサンタワーすらも自然に飲み込まれる。
そしてとうとう目の前に現れた小川の前で彩斗の足は止まった。
「ハァ…ハァ…ハァ……何…だ…これ」
まだ小川に足も踏み入れていないというのに、身体が沈んでいく感覚に襲われたのだ。
地面の底から引っ張られるような、上から重力のようなもので押し潰されていくような、下へ下へと向かわせる何か。
ゆっくりと彩斗は膝をつき、そのままコスモスが咲き渡る野原に倒れ込んだ。
「もうダメ…か……ホントに…僕って奴は」
身体の限界がやってきたのだと思った。
どのみち長くはないことは知っていたが、その時は思いの外早かった。
意識も徐々に遠のいていく。
だが少しも苦しくはなかった。
柔らかい布に包まれ、安らかに眠りに落ちるような、むしろ気持ちよさすら覚えた。
「こんな街に……ちょっとでも期待なんてするんじゃなかった……」
薄れ行く意識の中で小川の向こう側にミヤの幻を見た。
何かを伝えようとしているようだが、その言葉は届かない。
「ごめんね……僕には何もできなかった……」
その言って意識を失う。
だが最後に言い残したことがあった。
それは心の中で呟いた。
トラッシュ、君は僕に罰を与えに来たんだろうか
守れなかったミヤへの罪滅ぼしに、彼女の代わりの多くの人を助けながら、傷つき、誰にも看取られることなく、1人孤独に死んでいく
結局、この街は変わらなかったし、無駄だったかもしれないけど、こんな僕でも最後くらいは誰かを守れたんだろうか?
空がいきなり暗くなった。
太陽が雲に隠れ、真夏と遜色がなかった炎天下から季節相
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