精神の奥底
66 崩れた仮面
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ていないふりをしていたのだ。
悪意は消えない。
悪意を持たない人間などいないのだから。
「……ッ…あぁ…」
彩斗は期待していた。
自分は何人もの人間を傷つけ、何人もの命を奪ってしまった。
しかし結果的に自分は真っ黒に汚れても、それによってミヤや七海のような人たちにとって住みやすい街になってくれることを。
「沢城くん?」
彩斗はずっと自分はデンサンシティという街も住民も大嫌いだと言い聞かせてきた。
住民全員が悪人でないことくらい分かっていた。
だが皆悪人だと決めつけて、理解するのを諦めた方が楽になれたのだ。
自分の味方をしてくれる人間はきっといるはず、そんな期待をする方が胸を締め付けられるような苦しさを覚えた。
何度も殴られ、蹴られ、陰口を叩かれ、時には命を落としかけた。
それでも彩斗はこの街のことが完全には嫌いになりきれなかった。
確かにデンサンシティは発展するとともに、犯罪も増加していった。
まるで太陽が眩しいほどに、影もまたくっきりとその色を濃くするかのように。
だがデンサンシティがここまで発展し、ニホンをリードする都市となったのも、直向きに頑張ってきた人々の努力があってこそだ。
日が暮れて夜の闇に包まれても、太陽は輝き続けている。
夜明けは必ずやってくる。
期待することを諦めていたはずなのに、彩斗の心の何処かにはそんな淡い思いが残されていたのだ。
「……」
それを呆然と自覚したのは、ミヤとの出会いがきっかけだった。
彼女は彩斗の理想に最も近い人間だったのだろう。
彩斗自身も不思議と彼女に惹かれていった。
だからこそ、今まで1人だったら抑えられていた感情が彼女の大怪我によって爆発したのだろう。
しかし彼女との出会いは彩斗の中でこの街にも希望が残っていることを決定付けさせた。
ミヤは助かり、この街から少しでも悪意を減らすことができるなら。
彼女のような直向きな人間が報われるような、住みよい街になれば。
そんな淡い希望がここ数週間の彩斗を動かしていた。
だが現実は違った。
「オイ?聞いてんのか?」
いくら自分を汚してまで戦っても、第二、第三の悪意は絶えることなく増殖し続けるのだ。
まるで一度、害虫の侵入を許せば繁殖を始め、手がつけられなくなるかのように。
その連鎖に気づけば、誰もが前に進むことを諦めざるをえなかった。
時間が進まなければ夜明けが来ないというのに、住民たちは自ら時計の針を止めてしまう。
彩斗は自分が今までしてきたことも自分の存在さえも無意味に思えてしまったのだ。
絶望のあまり彩斗を支えてきたものが音を立てて壊れていくのが分かった。
そして気づけば、彩斗は何故か力の抜けた声で笑い始めていた。
「フッ…ハハッ…ハハハ……」
「オイ?何笑
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