MR編
百四十五話 失えど
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ちよちゃんが、そうして欲しいなら……私は、ずっとここに居るよ」
「……みゆ、き……」
「私、ずっとちよちゃんから色んなものを貰ってた。だからね、やっとちゃんと返せる日が来て、ちょっとだけ嬉しいの……ごめんね?」
「ううん、ウチの方こそ……美幸が居たから、ウチ、今日まで生きてこられた、美幸に、生きるための力をもらってたの……これから、もっとおんぶに抱っこになっちゃうかもしれない……それでも、良い?」
「うん、大丈夫。私、頑張るね……!」
「へへ……頼もしいなぁ」
その時が、麻野 美幸が佐川 千陽美を本当の意味で理解できた、最初の日だったと思う。彼女の目の前にいたのは、決して勝ち気で元気なだけの少女ではなく、自分の弱さを、恐怖を、ひたすらに隠して気丈にふるまっていた、自分と同じ、脆い少女だったのだ。
彼女と最後にした会話を、美幸は今でも、昨日の事のように鮮明に思い出すことが出来る。
「美幸って、大成功!って思った事ある?」
「えぇ?大成功……大成功……三年生の、コンクールとか?」
「あ、やっぱり!?あれは成功だったよねぇ……間違いなく、今までで一番拍手貰ったもん」
「うんっ、私の成功っていったら、あれくらいかなぁ」
「そっかー、そこは一緒だ!ま、ウチはもう一個あるけどね」
「えっ?」
「あの時、美幸に声を掛けたのが、ウチの今までで一番の成功!」
「え、えぇ〜?」
「えぇ〜ってなによう、本気でそう思ってるんだからね?」
「う、嬉しいけど、面と向かって言われると恥ずかしいよ……」
「へへ……でもね?美幸、本当に本当に、そう思うんだ、ウチ……」
「ちよちゃん?」
「…………」
その時、窓の外を見ていた千陽美が、何を思っていたのかは分からない。ただその瞬間、まるで彼女の存在が薄れるような、存在が希薄になるような気配を感じて、咄嗟に美幸は、彼女の肩をつかんでいた。
「……?美幸?」
「……ぁ、ご、ごめん、なんか、ちよちゃんが……」
それ以上言葉を続けることが出来ずに、美幸は黙り込む。そんな彼女の様子を見てクスリと笑った千陽美は、肩に当たっていた美幸の右手を取って、頬に当て、慈しむように言った。
「……ありがとう、美幸……貴女がウチの友達になってくれて……ホントによかった」
「……ちよ、ちゃん……」
やだよ、そんなこと言わないで、そう続けようとした言葉は、声にならなかった。
あの時、きっと彼女は、全てを分かっていたのだ……
……そのたった数時間後に、美幸の親友は……15年の人生の、幕を閉じた。
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