MR編
百四十五話 失えど
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そんな大したことではない。……いや、正確に言えば確かに覚えていたのだが、それは単に、他の生徒に話し相手がいないが為にもらいたての生徒手帳とにらめっこするくらいしかやることがなかっただけで、たまたまそれに乗っていた校歌を何度も読み返していただけなのだ。なので、決して彼女が期待するような才能があるわけではない……のだが……
「それにまだ部活決めてないよね!?」
「あ、はい……」
「じゃあ、お願いします!このとーり!!」
「ふぇぁっ!?」
しかし彼女にはそんな事はまるで関係ないらしく、いきなり地面に跪いたかと思うと、美幸に向かって見事な土下座を披露する。
「どうか力を貸して!ほんとに!お願い!!」
「ちょと、あ、頭上げてください!!変だって!」
「変でもいいの!お願いします!!」
こっちは全くよくない!!そう思いながら、気が付くと美幸はもうどうにでもなれと言わんばかりに遮二無二叫んでいた。
「あ、ああぅ……わ、分かりました!分かったから頭上げてくなんしょ!!」
「んしょ……?え?今分かったっていった?OKってこと!?」
「は、はい……」
あぁ、OKしてしまった、合唱なんて精々小学校の音楽の授業くらいしか経験もないのに、そう思ってげんなりしている美幸を置き去りに、彼女は一人花が咲いたように顔を明るくする。
「やった!!ありがとう!じゃあ早速いこ!!」
「え、行くって……」
「第二音楽室!第一は吹部が使ってるから、合唱部の練習場所はそこなの!いこ!!?」
「え、あわっ!?」
YESもNOもなく、彼女は美幸の手を取って教室を出る、半ばひきずられる形で付いていくだけだった美幸に、まるで嵐のようなその少女は言った。
「実は先輩たちに、今日連れてくって言ってたんだ!だからよかった!!」
「そ、そんな……」
勝手に何を言っているのかこの人は……ここまで強引な人に会ったのは多分生まれて初めて……いや、あるいは二度めかもしれない。自分からでは決して走り出そうとしない自分を無理矢理引っ張って走っていく。こんな強引さを自分に見せたのは多分……
「あ、あの……!」
「うぇっ!?」
丁度第二音楽室の前まで来たとき、唐突に立ち止まった美幸に、驚いたような声を上げて彼女は手を離す。流石にここまでの強引な流れに断られてしまうことを危惧していたのか、その瞳が捨てられる寸前の子犬のように潤み、美幸は若干たじろいだが、別に引き返そうというわけではない。
「あの、間違ってたら、ごめんなさい……さ、佐川さん……で、あってますか?」
ただ、目の前の人間がだれなのか、それをはっきりさせておきたかっただけだ。何しろ彼女は自分の手を引き始めてから、ろくに名乗りすらしていないのだから。
「え?あ、あぁぁ!!そっか!ウチそう言えばち
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