暁 〜小説投稿サイト〜
SAO─戦士達の物語
MR編
百四十五話 失えど
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麻野美幸の生に、一人で立てた瞬間は「無い」と本人は自覚している。幼児時代、小学生時代は言うまでもない。ずっと自分は、桐ケ谷涼人におんぶに抱っこだった。気弱で、泣き虫で、人見知り。人と話すのが得意ではなくて、そのくせ人の後ろに隠れてばかりのダメな子供だ。
そんな自分の性質が、中学生になってからすぐに治ったか?そんなわけはない。凡そ自分の都合で娘を仲のいい友人から引き離す羽目になってしまった母が心配していた通り、中学に入ってすぐの頃、美幸の友人は一人もできなかった。元来中学校というのは、同じ学区の小学校からエスカレーター式に上がってくる子供たちも多く、入った時点で既に友人のグループ的なものは出来上がっていることが多い。そこに突然入ってきた子供、それも内気で、ろくに話さない上に、偶に話しても妙な東北訛りが入る少女だ。溶け込めるわけがない。当然のように、美幸はクラスで孤立し、そして中学生が経った一人で孤立した場合のおおよその礼に漏れない「遊び」の標的になる……筈であった。


2019年4月 麻野美幸 12歳

「ね、貴女、麻野さんだよね!?」
「!?」
彼女が話しかけてきたのは丁度、部活の勧誘が始まったころだった。せめて、共通の趣味を持つ人が居れば友人もできるかもしれない、と薄い期待を抱きながら何かしらの部活に入るべきか、それともその望みも恐れの内に沈めて帰宅部を選ぶべきかとHR後の教室で悩んでいた時、唐突に視界に飛び込んできた彼女はいきなり美幸の手をつかむと、真っすぐにその目を見つめて……

「合唱部に入ってくれない!!?」
「……えっ!?」
本当に、本当になんの脈絡もなく、そう言い放ったのだ。

────

「あ、あの、ち、ちょっと……!」
「お願い!お願い!おねがーい!!あのね!ウチの学校の合唱部、二年生がすっごく少なくて、このままじゃコンクールに一人だけ足りないの!部員、必要なの!お願いっ!」
「え、えっと、でも私合唱なんてでぎねし……」
「そんな事無いよ!!」
あまりに唐突な申し出に渋る美幸に、彼女は両手を広げて返す。

「麻野さんこの前、音楽の最初の授業の時、一人だけちゃんと歌詞覚えてたでしょ!?」
「そ、それは……」
其れは、美幸にしてみれば迷惑極まりない、音楽教師のちょっとしたいたずらのようなものだった。
授業の最初に教師が出した課題は、伴奏に合わせて歌えるところまで校歌を歌う事。と言っても、皆入学式で少し歌っただけの校歌等、精々一番を覚えている程度で、それもうろ覚えだった為にろくすっぽ歌えはしなかった、しかしそんな中で美幸だけが、二番の出だしを完璧に歌いきることが出来たのだ。無論、次の瞬間歌っているのが自分だけであることに気が付いて止めてしまったが……ただあれは別に、校歌の歌詞を覚えきっていたとか
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