241部分:雷神の涙その一
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た夜光の杯を傾けながら笑う。真紅の瞳が縦になっていく。
程無くして魔道師達に連れられて青と紫の瞳の少女が部屋に入って来た。
シアルフィにいた時と比べてかなりやつれた感がある。だが態度は毅然としており二つの色の瞳の光は強い。キッ、とユリウスを見据えている。
「剣呑だな。少しは十年振りに再会した兄を懐かしんだらどうだ」
口の端を歪めて笑った。だが目は全く笑ってはいない。激しい殺意と憎悪の光を発している。
「・・・・・・違うわ」
ユリアはユリウスを見据えたまま言った。
「貴方は兄様なんかじゃない」
その声と瞳には憎しみと怖れ、そしてそれに打ち勝とうとする強い気持ちが表われていた。
「十年前のあの日から私の優しい兄様はいなくなったわ。今私の目の前にいあるのは私を手にかけようとしお母様を殺した魔物よ、貴方は兄様の姿を借りた魔物よ!」
「魔物!?下賤な呼び方だな」
ユリウスはそれに対して言った。
「この世を統べる神である私に対して」
右手の夜行杯が黒い炎により焼き尽くされた。否、それは炎ではなかった。闇の瘴気であった。
「忌まわしき聖戦士共により倒されてから百年、ようやく復活が成ったのだ。マイラの血が合わさることによってな」
そう言うとゆっくりとユリアに歩み寄ってきた。黒い瘴気は右手だけでなくその全身も包んでいた。
「最早この世は完全に私のものとなる。ヘイムとバルドの娘よ、貴様を喰らうことにより永遠にな」
紅い瞳が完全に竜のものとなった。部屋の中の机や椅子等を溶かしつつ瘴気がユリアにゆっくりと迫る。
ユリアは逃げなかった。覚悟していたのではない。心に勇気を宿らせていた。負けるわけにはいかなかった。必ずこの瘴気を跳ね返すつもりであった。
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