忘却
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血から感染したらしくてね、当初は薬でなんとかなってたんだけど厄介なことにこれが薬剤耐性型でね、今は横浜の病院に入院してるよ」
「治療法はないの?」
「それは・・・」
シューが答えるのに少し間を置くなか、シオンは彼の異変を見逃さなかった。
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「お前、どうして嘘を吐いた?」
「なんのこと?」
二人きりとなったダイシーカフェでは、カウンターから離れたテーブル席で水の入ったコップを見つめながらシオンは尋ねた。
聞かれたシューはいつもの穏やかな表情で返す。
「惚けるな、何故治療法が無いなんて嘘を吐いたと聞いている」
「あぁ、そのこと・・・」
「確かに昔は不治の病として医者の頭を悩ませてはいたが、ここ数十年で医療は進歩している。とても治療法が全く無いなんて思えない」
シオンの言うことはもっともである。いくら不治の病といえど絶対に治せない訳ではない。たとえ今は無理でも数年単位のスパンで見れば症状を抑えながら治療法を探すことができ、治すこともできる。それがこの十数年で成長を遂げた医療の姿である。
「君の言う通りだよ、確かに治療法はある。それに、長い目で見れば完治することも」
シューはカウンター席で背を向けたまま答えた。
「なら・・・」
「でもね、それは初期や症状がまだ軽い状態での話。末期の段階にある彼女を治すには、とてもじゃないが方法はたったひとつだ」
いつもの穏やかな表情から真剣な表情に変わったシューを見てシオンは思わず息を呑む。
「・・・どういう、ことだ?」
「エイズに耐性のある骨髄を移植する。白人の約1%にしか存在しない変異遺伝子さ」
「1%・・・」
「条件に見合う人物を見つけ出すのに苦労したよ、白人という白人を片っ端からね。そして見つけたよ、たったひとりだけね」
「その人は今どこに?」
シオンが問いかけると、シューは背を向けたまま答えた。
「ここにいる」
「は?」
「1%の遺伝子をもつ存在・・・それが僕だよ」
それはあまりにも淡々とした口調だった。シオンは混乱する思考を無理やり整理し、再び問いかけた。
「いや、でもお前は・・・」
「確かに僕の体の大半には日本の血が流れてる。でもね僕には北欧系の血が僅かに流れているんだ。自分の血が混ざっていることは知ってはいたけど、まさかこんな遺伝子を持っていたなんて予想外だったよ」
「じゃあ、それがあれば・・・」
「彼女を救えるかもね。でも・・・」
シューは表情を曇らせると、途切れ途切れな言葉を吐き出した。
「・・・それは、できな
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