第二章
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「難しいです」
「それも極めてですか」
「そうです、どれだけお話をしても」
死の床にあるキホーテにだ。
「無理かと」
「ですが」
「はい、私にしてもです」
僧侶も弟子に言った、それも心から。
「そうせねばならないですが」
「難しいですか」
「どうしたものか」
こう言うのだった、しかしここでだ。弟子は師に言った。
「実は心当たりがあります」
「心当たりとは」
「はい、あの方を安らかに出来る方です」
「その方がおられるのですか」
「お一人ですが」
「その方は」
「はい、まさに騎士だった方です」
キホーテが憧れたその、というのだ。
「ある修道院に隠棲しておられていますが」
「その方をですか」
「お呼びしましょう」
こう言うのだった。
「そしてキホーテさんにお会いして頂くのです」
「そうすれば」
「きっとキホーテさんもです」
騎士はもう存在しない、自分が夢見た存在は何もかもが夢幻であったと思い死の床で絶望し弱々しく世を去ろうとしている彼もというのだ。
「必ずです」
「最期で」
「幸せに旅立たれます」
「そしてその方は」
「今からお呼びします」
弟子は師に答えた。
「そうしますので」
「今すぐにですか」
「はい、そうして宜しいでしょうか」
「はい」
僧侶はすぐにだ、弟子に答えた。
「お願いします」
「それでは」
弟子は師の言葉に応えてだ、すぐに外に出た。そうして何処かへと向かった。彼が帰って来たのは一刻程してからだった。
師のところに笑顔で戻ってだ、こう言った。
「ではです」
「では、ですか」
「これからキホーテさんのところに向かいましょう」
「今すぐにですか」
「キホーテさんはまだ」
「はい、刻一刻と弱っていっておられますが」
しかしというのだ。
「まだです」
「それは何より、それでは」
「これからですか」
「私共はです」
「キホーテさんの枕元にですね」
「参りましょう」
こう師に言った。
「その方もこられます」
「そうですが、ですが」
「ですが?」
「貴方は一刻で戻られましたが」
彼が出て行った時間のことをだ、僧侶は弟子に問うた。
「随分と早いのでは」
「そう思われますか」
「修道院と言われましたが」
「はい、そうです」
「その修道院とは一体」
「近くの、森の中にある」
「この辺りのですか」
僧侶は弟子の言葉に怪訝な顔になった。
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