第三章
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「そこで、です」
「若い男でも入ったか」
「おわかりですか」
「みやの名が出た時点でな」
そこでというのだ。
「おおよそじゃなが」
「そうですか」
「男か」
「はい」
「どういった男であった」
「詰襟の服にマントを羽織っていました」
「というと君と同じ学生か」
その身なりからもだ、森谷は察した。今度は相手のことを。
「そうなるか」
「顔は詳しく見ていませんが」
「そうか」
「このことを申し上げたく」
「わかった、ではな」
「はい、それでは」
「後はわしのことだ」
話をした書生には関わりのないことと告げた、そしてだった。
森谷はこの日の夜だ、みやの家に行きみや自身にこのことを問うた。
「こうした話を聞いた」
「そうですか」
「どうなのか」
「はい」
みやは一旦目を閉じてからだ、彼に答えた。
「その通りです」
「そうか」
「申し訳ありません」
「学生と聞いた」
森谷はみやの返事を聞いたうえでさらに問うた。
「そうだな」
「そうです」
「その学生を好きか」
「好きです」
「心からか」
「左様です」
その通りだとだ、森谷は答えたのだった。
「その方を」
「そのこともわかった」
「どうか私だけを」
罰するのならとだ、みやは自ら申し出た。
「お願いします」
「わしが罰するというのか」
「不義なので」
「確かに不義だな」
森谷は自身の前で頭を垂れるみやに応えた、みやは彼の前にいるが全く震えていない。頭は垂れているが振る舞いに疚しいところはない。
「しかし本気だな」
「誓って言います」
顔を上げて森谷の目を見てきた、その目にも曇りはない。
「その方を心から」
「わかった、その学生は裕福か」
「その様で」
「ではわしは今後ここに来ぬ」
「この家に」
「二度とな」
まさにというのだ。
「何もかもを置いていく」
「何もかもをですか」
「ここにな、達者でな」
こう言ってだ、森谷はみよの前から立ってそのまま去った、玄関に財布の中の銭、それこそそれだけで一財産のものまで置いていった。
このことは忽ち東京中で噂になった、それで山県有朋が料亭で政治の話をしてから森谷本人に対して問うた。
「この話だが」
「はい、何故かですな」
「何故身を引いたのだ」
このことを問うたのだった。
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