第四章
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「あの方は」
「そうだったのですか」
「奇矯な振る舞いばかりと思っていたら」
「それが実は」
「学問に鍛錬」
「そしてご領地を見回っておられましたか」
「ですから国はよく治まり」
田畑は耕され開墾され堤等も整えられている。町には商いをする者達が集まり道も奇麗だ。ならず者は徹底的に取り締まられている。
「兵も集まり戦にも勝っていますね」
「言われてみればそうですね」
「民は最初から殿を慕っておられました」
「お父上の跡を継がれてから」
「すぐに」
「政と戦に出ていました」
信長の学問と鍛錬、この二つがというのだ。
「そういうことなのです」
「そうですか、しかし」
「そのことがいち早くおわかりになられるとは」
「帰蝶様、お流石です」
「まことに」
「私は蝮の娘です」
くすりと笑ってだ、帰蝶は侍女達に言った。
「ですからこれ位のことは出来ます」
「人を見抜くこと」
「殿についても」
「そうなるのですね」
「大殿は最初から言っておられましたが」
「大殿と同じくですか」
「そうです、殿は必ずや」
信長、彼はというのだ。
「尾張からさらに出られます」
「尾張一国に収まらず」
「さらに」
「そうなります」
確信を以ての言葉だった。
「間違いなく」
「確かに尾張を統一されましたし」
「よく治まっていますが」
「美濃とは」
「はい、兄上とは」
帰蝶の長兄である義龍は弟達も父の道三も殺しそのうえで美濃の主となった、信長は道三が死の直前に美濃を譲ると言われたこともあり彼とは敵対関係になっている。
「そして駿河の今川家ともですね」
「何かと衝突していますし」
「かなり危ういですが」
「それでもですか」
「殿は」
「尾張だけではありません」
帰蝶の言葉は揺るがなかった、そして。
彼女は絶対の自信を以て夫を見続けた、その彼女の自信通りに。
信長は駿河から攻め込んできた今川義元を田楽狭間で討ち取り危機を乗り越え美濃も手中に収めた。帰蝶は彼女がかつて住んでいた稲葉山の城に入ってからまた侍女達に言った。
「この通りです」
「本当にでしたね」
「殿は尾張一国では収まりませんでしたね」
「美濃までも手中に収められましたね」
「この様に」
「そしてこれに終わらず」
信長、彼はというのだ。
「さらにです」
「大きくなられますか」
「尾張、美濃から」
「さらに」
「はい、それだけの方です」
こう言うのだった、そのうえで父道三の墓に参って微笑んで言った。
「殿はこれからも大きくなられます、私達が見た通り」
父の墓に花を捧げてから言った、そして実際に信長は上洛して伊勢や大和も他の国々も手に入れて天下人となった。父と娘が見ていた通りの者になったのだった。
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