第一章
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蝮の娘
下克上を繰り返し美濃一国を手に入れた斎藤道三には何人かの息子達がいた、そして末に娘が一人いた。
その娘の名を帰蝶という、母親に似たのか癖の強い顔をしている父とはうって変わって整った顔立ちをしている。
この時代の武家の娘の常としてだ、ましてや大名の姫である帰蝶も縁談の話が進められていた。その相手はというと。
「尾張のですか」
「大うつけという」
「あの吉法師殿ですか」
「そうじゃ、あの者にじゃ」
まさにとだ、道三は家臣達に答えた。
「帰蝶を嫁がせる」
「しかし吉法師殿といえば」
「あの御仁はです」
「大うつけと評判です」
「奇矯な振る舞いが多く」
「あれでは跡を継がれてもです」
「家を潰します」
「ははは、御主達はそう思うか」
道三は口々に吉法師、即ち織田信長について言う家臣達に笑って応えた。細長く鋭い目を持ったその顔で。
「その様にな」
「紐を帯にして派手な柄の服を着て」
「立ったまま歩いて餅や瓜を食うとか」
「何を考えておられるのか」
「全くわかりませぬ」
「そうした方ですが」
「そう言われておるな」
道三も知っていた、信長の噂は。信長のことは尾張だけでなく美濃にも聞こえ伝わっている。
しかしだ、道三はこう言うのだった。
「だがわしは決めた」
「帰蝶様をですか」
「その吉法師殿にですか」
「あえてですか」
「嫁がさせますか」
「うむ」
返事は一言だった。
「そうする、よいな」
「あの御仁の家はまだ尾張の半分程です」
「それ位しか治めておらず」
「しかもあの御仁が主になりますと」
「どうなるか」
「御主達はそう思うな」
また言った道三だった。
「しかしやがてわかるわ」
「何故帰蝶様を嫁がさせるか」
「そのことが」
「わしも伊達に今にまで至った訳ではない」
一介の小坊主から油売りの商人になり土岐氏の家臣となりそして後は謀略も駆使し美濃を乗っ取り後はこの国を守り治めている。その道三の言葉だ。
「そのわしが決めたことじゃ」
「だからですか」
「ここは、ですか」
「帰蝶様をですか」
「あの御仁のところに送られますか」
「その様にな」
道三は家臣達に言うのだった、貴蝶を信長に嫁がせると。このことは揺るがなかった。
そして帰蝶自身にも言うのだった。自分とは違う優れた眉目を持つ彼女に。
「御主の婿殿はじゃ」
「父上が、ですね」
「これだと思ったな」
まさにというのだ。
「そうした御仁じゃ」
「では」
「御主の夫に相応しい」
信長、彼はというのだ。
「それは尾張に行けばな」
「わかりますか」
「御主ならわかる」
道三は微笑み言った。
「御主がわしに最も似ておるからな」
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