第八章
[8]前話
「前向きにな」
「また書くのね」
「ああ、そうする」
実際にというのだ。
「そしてな」
「もっといい論文にして」
「その時こそ唸らせるのね」
「何を言われても書いてやる」
それこそというのだ。
「この大学は不祥事をやらかすか引き抜かれない限りいられるしな」
「それ考えると大きいでしょ」
「確かにな、生活は安定してるしな」
「だったら余計にね」
「落ち込むこともないな」
「プラスに考える要素は幾らでもあるし」
それならとだ、レオノーラも食事を摂りつつ言う。
「前向きでいいのよ」
「それどころか落ちこんでも仕方ない」
「要するにね」
「そうだな」
ヴィンチェロも頷いて言った。
「本当にそうだな」
「じゃあ論文が完成したら」
「また提出して読んでもらうな」
「そうしてね」
「ああ、ただな」
「ただ?」
「ずっと気付かなかったことがある」
ここでこんなことも言ったヴィンチェロだった。
「俺もな」
「というと?」
「お星様ってのはすぐそこにあるんだな」
こんなことを言うのだった、ここで。
「そのこともわかったな」
「っていうと?」
「まあその話はいいか」
「話してくれないの」
「そうしたお星様があるのならな」
それならというのだ。
「ずっと傍にいて欲しいな」
「何か星の王子様みたいなこと言うわね」
「そうか?」
「あなた今度はそちらの論文書くの?」
「フランス文学も嫌いじゃない」
ひいてはサンテ=グ=ジュペリもというのだ。
「けれど今はあの人についても論文は書かない」
「それでどうしてそんなことを言ったの?」
「少し思ってだよ」
「余計に訳がわからないわね」
「そうか、けれどな」
「お星様がなの」
「あるなら大切にしないとな」
こうレオノーラに話した。
「絶対にな、そして書くか」
「論文をなのね」
「学んでそしてな」
「幾ら酷評されてもなのね」
「ああ、お星様がいつも傍にあるのならな」
それこそというのだ。
「俺は書くさ、落ち込むことなんかしなくてもな」
「よくわからないけれど頑張ってね」
「それじゃあそうするな」
笑って言うヴィンチェロだった、彼はもう論文を酷評されても落ち込むことはしないと自分に誓い実際にそうしていった、やがてレオノーラと結婚し准教授ひいては教授になる中で論文も認められていった。その中で彼はいつも星が傍にあるからだとだ、妻を見て言うのだった。彼女がそのことに気付かずともそれでも。
俯く顔照らす星 完
2016・6・25
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