第一章
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俯く顔照らす星
星はいつも光輝いている、それはこの夜もだった。
だがヴィンチェロ=モドリーゴはその星を観ることなくだ、今は沈んだ気持ちで居酒屋のカウンターで酒を飲んでいた。
その彼にだ、店の親父が尋ねた。
「まだ暗いんだな」
「ああ、暗くもなるさ」
それこそとだ、ヴィンチェロは親父に答えた。太い眉とはっきりした目に彫のある浅黒い顔には立派な鼻と引き締まった唇がある。細い縮れた髪は漆黒で後ろに撫でつけられている。長身で実によく引き締まった身体つきだ。
「論文を書いても書いても」
「認められないか」
「やれここは悪いあそこが悪い」
「教授陣にコテンパンか」
「ずっと助手で」
しかもとだ、ヴィンチェロは言うのだった。
「博士号もな」
「今は修士だったな、あんた」
「そうさ、文学のな」
「それだよな」
「大学で助手さ」
職業はそれだというのだ。
「大学の先生でも助手だとな」
「給料は安くてか」
「待遇もな」
給料以外のそれもというのだ。
「これまた違うんだよ」
「学者さんの世界も色々なんだな」
「この国でもそうさ」
ポルトガルでもというのだ、彼等の国だ。
「学者って一口に言っても階級ってのがあるんだよ」
「教授、准教授にかい」
「助手ってなってな」
「そこは教会と一緒だね」
「似てるな、教会も聖職者に階級があってな」
「それでだよな」
「ああ、学者の世界もそうなんだよ」
彼がいる世界もというのだ。
「教授が一番偉くて」
「助手はか」
「もう吹けば飛ぶ様なものだよ」
「辛いものがあるんだね、学者の世界も」
「まあ食えてることは食えてるさ」
助手の給料でもというのだ。
「充分な、もっと言えば俺は地位もな」
「いいっていうのか」
「そうさ、博士号にしても」
「さっきと言ってることが違うじゃないか」
「問題は必死に勉強して書いた論文がだよ」
学者は論文を書くのが仕事だ、だがその論文をというのだ。
「書けば書くだけな」
「叩かれるのか」
「重箱の隅を突くみたいにな」
「日本の表現かい?」
「ああ、あの国のだよ」
まさにそれだというのだ。
「本当にそんな感じで何から何まで叩かれるんだよ」
「折角書いたそれをか」
「何をどう書いてもな」
それでもというのだ。
「ボロクソに叩かれてるさ、三日前に出した論文は絶対の自信があったさ」
「けれどその論文もかい」
「これまでよりも遥かにさ」
叩かれたというのだ。
「それでだよ」
「この三日落ち込んでるんだね」
「それで今もか」
「こうして飲んでるんだよ」
それで憂さを晴らそうとしているというのだ。
「ひたすらな」
「やれやれだな」
「全く
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