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恋女房
第六章

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「待つで、わしは」
「残り二ヶ月も」
「そうしますか」
「そや、あと二ヶ月もな」
 そうすると言ってだ、彼は今は酒も飲まずに相方を待っていた。その残り二ヶ月も待って遂にだった。
 あんこうが退院するその日にだ、ふぐはマネージャーに言った。
「迎えに行きましょか」
「あいつのところにか」
「はい、サナトリウムまで」
 そこまでというのだ。
「行ってそして」
「迎えに行ってか」
「その足で舞台行きましょ」
「おいおい、それはや」
「舞台はですか」
「まだ早いで」
 マネージャーは焦るふぐに笑って言った。
「まずは退院をお祝いしてや」
「それからですか」
「少し復帰の身支度をしてや」
「そしていよいよ」
「そや、焦るな」
「わかりました」
 ふぐはマネージャーの言葉に頷いた、そしてだった。
 この日は我慢して仕事としてもう入っていた念願の二人での漫才の舞台をした。そしてその舞台の後でだった。
 ふぐはあんこうにだ、満面の笑みで言った、
「これからはな」
「またやな」
「ガンガン漫才やっていこな」
「そやな、けどな」
「けど?」
「御前相当嬉しそうやな」
「そや、実際にや」
 この通りとだ、ふぐは居酒屋であんこうに言った。
「二人でまた漫才出来てな」
「嬉しいんやな」
「ほんまにや」
 生粋の漫才師としての言葉だった。
「わし嬉しくて仕方ないわ」
「そやねんな」
「そや、ただな」
「ただ?」
「自分漫才の腕は落ちてないな」
 一年の療養生活の中でというのだ。
「思ったより」
「そら入院している間も勉強してたし稽古もしてた」
「一人でか」
「わしは漫才師や」 
 それだけにというのだ。
「それをやらなな」
「あかんと思うてたんか」
「療養しててもな」
「それでやってたんか」
「そや、御前も待ってくれてるって思ってたしな」
「待ってたわ、そやから余計にな」
 ふぐはあんこうに言った、二人で居酒屋で卓を囲みつつ。周りは店の他の客達が賑やかに飲食を楽しんでいる。
「嬉しいわ」
「そやねんな」
「そや、ほんまにや」
 それこそというのだ。
「御前がそうしてくれててな」
「当たり前やろ、漫才で生きてるなら」
「漫才せなな」
「それのこと考えなあかんからな」
 常に、というのだ。
「そうしてきたわ、待った介があったわ」
「何かヤクザ映画で亭主の出所を喜ぶかみさんみたいやな」
「極道の妻か」
「それみたいやな」
「わしヤクザ映画は観いへんぞ」
 漫才は必死に勉強してもというのだ。
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