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渦巻く滄海 紅き空 【上】
百十三 時越え
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の者からも保護してくれた事を。
強大過ぎる力に人々は恐怖し、畏怖する。予知の力だけでさえ、敬遠されてきたのだ。
もしも最初から凄まじい力を持っていたら、想像するだけでゾッとする。

「いいえ…母さま。紫苑は母さまが大好きです……」



母の愛により紫苑は全てを悟り、そして己の中に眠る強大な力を目覚めさせた。
鈴を持たぬ彼女にはもう、自分を束縛する枷は無かった。

『な、なんだ…この光は』
体内に取り込んだ、か弱いはずの巫女から凄まじい力が溢れてくる。漆黒の闇を圧倒する眩い輝きが、紫苑の中から生まれ出ているのを見て、【魍魎】は狼狽えた。
『まさか、あの鈴は…お前の、この力を…』

鈴が結界を張って守っていたのではなく、紫苑の強大な力を抑え込んでいた事実を察して、【魍魎】が愕然とする。
今まで生きてきた巫女の集大成とも言える、物凄い光と力を身に纏った紫苑は、己の身体から溢れる光を見下ろした後、さっと手を翳した。その些細な仕草だけで【魍魎】の闇が晴れてゆく。
鈴の光より遥かに強い神々しい光が紫苑から迸り、【魍魎】が苦悶の声を上げた。


「共に消え去るのだ…」
【魍魎】を完全に消滅させる為、強大な力を生まれながらに持っていた紫苑。そして今、こうして【魍魎】と共に消滅する事が己の運命なのだ、と彼女は自嘲する。

元々は同一の存在である【魍魎】と巫女。
あまりの力に自らその力の使い方を誤らぬよう、二つの心・思想に分かれ、互いに互いを戒め、思い、見つめ合って存在してきた陰と陽。
紫苑はその二つの力に、生まれながらにして振り回されてきたとも言える。


紫苑は瞳を閉ざす。瞼の裏で思い出が去来し、ナルトの声が彼方で聞こえた。
時を越えたあの湖畔で、ナルトが紫苑に伝えた一言。


――俺が守る。

自分を守る、と真摯に宣言した彼の顔が脳裏に過ぎって、紫苑は口許に苦笑を湛えた。
「嘘つき…お前は嘘つきじゃ」

だって今この瞬間に、自分は【魍魎】と共に、死ぬのだから。


強く閉ざした瞼から長い睫毛を伝って、小さな雫がころり、落ちる。
暗澹たる闇に音も無く、紫苑の頬を撫でてゆく玉。
瞼から零れる透明な涙は皮肉にも、今にも鳴りそうな輪郭をしていた。

常に肌身離さず身につけ、そして自ら手放したモノの形。


りぃん、と空耳がした。


















同時に、鈴の音に雑じって、怒声が響き渡る。

「…―――このっ、バカ巫女が!」

彼にしては珍しい、荒々しい声音。


怒りに満ちた声を浴びせられたかと思うと、紫苑は己の手首を誰かに掴まれた。一気に引きあげられる。
海底の如く澱んだ暗闇から急激に引っ張られたその先に、金色
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