百十三 時越え
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と暗に告げ、【魍魎】は愉快げに喉を鳴らす。
鈴の美しい音色にはとても程遠い、下卑た嗤い声が闇に轟いた。
『―――人の世の朽ち果てる様をな…』
暗愚な巫女だ、と己の体内で項垂れる彼女を【魍魎】は嘲笑う。こだまする哄笑の中、紫苑は一度たりとも顔を上げなかった。
「これで、これでよいのじゃ…最初からこうしておけば、里の者も私の代わりに死ぬ者もいなかった…そうでしょ?」
ようやっと顔を上げた紫苑が闇の彼方を呼ぶ。その漆黒の向こうに、小さく輝く光があった。
「…母さま……」
その光は、かつて【魍魎】に取り込まれた弥勒の最後の命の輝き。紫苑の母の弥勒は【魍魎】の一部と化しても、愛しい我が子を見守っていた。
たとえもう、人の姿はしていなくとも、その輝きが母のものだと紫苑は勘づいていた。
≪紫苑…貴女には穏やかな日々を送ってほしかった…≫
弥勒の声が闇の彼方から聞こえてくる。母の声をした穏やかな光は、紫苑に過去の映像を垣間見せる。その光景には、弥勒が何故、紫苑に巫女として身につける巫術の一切を教えなかったかの理由が描かれていた。
紫苑は生まれながらにして、強大な力の持ち主だった。母の弥勒、いやそれ以上、一つ間違えれば【魍魎】を遥かに凌ぐ力を持っていた。
それ故に、弥勒は紫苑に何も教えず、ただ小さな鈴を与えたのだ。
その鈴は、一見、強力な結界であり、紫苑を守る力であるように見せかけて、その実、彼女の力を抑え込む封印術がかけられていた。
強すぎる力は、時として人を【魍魎】のような化け物と変える。それを危惧した弥勒はあえて我が子の力を封印したのだ。
強力な封印の力を持つ鈴によって、紫苑の内側にも結界を張っていたのである。
紫苑の力は死ぬ間際に発動する。よって紫苑の身代わりとなって誰かが死なねば、【魍魎】以上の力を持った存在が目覚めてしまう。幼き紫苑が己の強大過ぎる力を御する事が出来るわけもなく、ただ暴走させるのは目に見えていた。
だから彼女が己自身の力を操るようになれる年齢になるまで、弥勒は巫女を守るべくして傍に仕える里の者達に頼んだのだ。
酷な願いである事を重々承知の上で、巫女の身代わりに死んでほしいと。
【魍魎】以上の破壊と恐怖が我が子から生まれるのを防ぐ為に、鈴という枷を与えた弥勒。
母の告白を耳にして、紫苑は思わず光へ手を伸ばす。闇の彼方の微かな光は今にも消え入りそうに小さなモノだったが、紫苑の身体をやわらかく包み込んだ。
その光の中で、紫苑は確かに弥勒に抱き締められた。
≪紫苑…母は貴女を守っても、信じてもあげられなかった…恨みますか?≫
母のぬくもりの中で、紫苑は静かに涙した。彼女は悟っていた。
弥勒が自分を守る為に、悩み考え、そして里
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