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渦巻く滄海 紅き空 【上】
百十三 時越え
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を顰めた。
龍の咆哮が洞窟に幾重にも反響している。岩場を崩す龍のせいで溶岩が溢れ、もはや足場はほとんど無かった。
ましてや紫苑の姿など、どこにも見当たらない。

不意にナルトは、踊り狂っている龍の中心に眼を留める。そこから、声が聞こえた気がした。


ナルト、お前は…―――。


自分の名を呼ばれ、ナルトの意識が一瞬、そちらに向かう。その瞬間を狙った龍が大きく口を開いて、そして。


「生きろ!」
刹那、凛とした紫苑の声と共に、鈴の音が美しく鳴り響いた。



紫苑の声が何処から聞こえてきたのか把握出来ずとも、身近に感じる鈴の音に、ナルトは眼を瞬かせる。今一度襲い掛かってきた龍を視界の端に捉え、彼はわざと傍観の構えを取った。
自分の予想が正しいのかどうか、判断する為に。


龍の尻尾が翻ると同時に、リィン、と涼やかな音色が洞窟内に轟いた。己の周囲に、丸く透明な結界が張られている。
その結界は、紫苑が常に身につけていたモノの形をしていた。
結界の光に阻まれ、ナルトに触れる寸前に弾けた龍が黒い血の雨を降らせる。


「……何をした?」

結界の形が鈴である事実から、ナルトは即座に思い当った。
龍の血を煩わしげに払い、空中で身を翻した彼は、先ほど声がした方向へ高らかに叫んだ。



「―――紫苑!」
ナルトの襟元に差し込まれた鈴が、りぃん、と鳴いた。












深い闇の中で、紫苑は膝を抱えて座り込んでいた。

【魍魎】に取り込まれた際には、さほど感じなかった闇も冷気も悲哀も、今は彼女の全身を震えさせるほど身近に感じる。心臓まで凍えそうな冷え切った指先で、自分の身体を抱きかかえるようにしたところで、暗闇が晴れるはずもない。
何故なら、紫苑を守っていた鈴の結界が無いからだ。


それまで鈴の光に避けられていた暗黒が、ここぞとばかりに浸食してくる。
既に【魍魎】と一つになった母の弥勒と同じように、闇は紫苑を呑み込もうとしていた。
けれど彼女はその闇の浸食から逃げようとも逆らおうともせず、ただ無気力に座り込んでいる。


時を越え、過去に戻り、再び現実へと戻った今の紫苑には自分の身を守るすべがなかった。




『よいのか?巫女の守りを人などに与えて……』
俯く紫苑に、【魍魎】が囁く。

弥勒が紫苑を助けた瞬間を目の当たりにした事のある【魍魎】は、紫苑もまたその力を使ったのだと理解していた。
過去へ戻り、ナルトに鈴を与えた彼女の行為を鼻で嗤う。


『よかろう。それがお前の望みなら、叶えてやろう。そして目に焼きつけるとよい。我が躰と一体となり、お前が守ろうとした者どもの死に様を…』

お前の母――弥勒と同じように、
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