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渦巻く滄海 紅き空 【上】
百十三 時越え
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れる過去の映像。
かつて母の弥勒に封印された【魍魎】の言葉尻を、現在の紫苑はとらえた。


【魍魎】の体内で、紫苑は過去を追憶し、そして己の中に眠る力を見出す。
幼き自分を救ってくれた弥勒の力。ソレが巫女の力によるものなら。


「時を――――超える!」


紫苑に出来ぬ道理は無かった。














次の瞬間、妙なことに紫苑は、既視感を覚える場所にいた。
祠に入る手前で墜ちた、谷底の湖。その湖傍の木立の下に、彼女は舞い戻っていた。

思わず怯んだ紫苑の背に、大木の幹があたる。湖の墜落時に濡れた服の感触が、これが夢でも幻でもない事実だと諭してくる。
同様に、木の幹に突き立てた爪の痛みが、目の前の光景が予知による映像ではなく、現実だということを紫苑に思い知らしめた。


気がつけば、【魍魎】の体内ではなく、湖の畔にいる。
暫し戸惑った後、冷静を取り戻した紫苑は、これこそが自分の力なのだと悟った。
巫女の力が、自分の死を受け入れて墜落し、そして助けられた、この谷底の湖へと導いたのだと。

紫苑は自らの身体を見下ろす。全身の輪郭がほのかに発光していた。おそらく巫女にしか視えぬこの光こそが時を越えた証なのだろう。


周囲を見渡して、そして彼女は、目の前に己が最も生きていてほしい存在がいる事実に気づいた。
凛とした声が紫苑に告げる。

「―――俺が守る」


視界に飛び込んできた、酷く力強く頼りになるその背中に飛びつきたくなる衝動を、紫苑はぐっと堪える。現在へ引き戻される前に、彼女は己の為すべき事をしようと、静かに立ち上がった。

紫苑をおぶさる体勢で屈んでいるナルトは、肩越しに振り返ると彼女を静かに促してくる。
物言わぬその背中に縋りついて、何もかもを暴露したくなる誘惑を振り払って、紫苑はゆっくりと彼の許に歩み寄った。


「ナルト…」
「うん?」

寡黙な背中にそっと寄りかかると、襟元に差した鈴が、ちりん、と鳴る。
ナルトの首に回した自分の腕を、紫苑はぎゅっと握り締めた。
「ナルト…お前は」


万感の想いを、全て詰め込んで、紫苑は願う。そうして、ナルトの耳元で囁いた。


「…――――生きろ」

その言葉をきっかけに、紫苑は再び、現在へと引き戻される。
【魍魎】に取り込まれてしまった無情な世界へと。















時は、実際の時間へと戻る。

過去ではなく、現実では、紫苑は【魍魎】に呑み込まれていた。
彼女が消えた代わりに出現したのは、【魍魎】の肉体らしき数多の龍。

龍のけたたましい声に顔を顰めたナルトは、紫苑の姿が消え去った地面の割れ目に視線をやって益々眉
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