Interlude
Act-××××
[8]前話
――その女は、本来ならばとうの昔に滅んでいるはずのモノだった。
――その女は、本来ならば存在して居ないはずのモノだった。
――その女は、あるいは、ずっとずっと始まりをたどれば、むしろ『正しい』存在から出でた。
――その女は、『人類悪』の憑代であった。
***
塒にしていた廃ビルに、差し込んでくる朝の光。それを目に受け、ほんの少しの眩しさを感じたことで、『彼女』は目を覚ました。
昨晩どうにかして辿り着いたこの場所は、立ち入る人もなく、他の七基のサーヴァントによる聖杯戦争の余波からもやや遠い、好都合な隠れ家である。彼女は周囲に自分と、自分のサーヴァント以外の気配がないことを確認した彼女は、ゆっくりとその裸体を起こした。
ふわぁ、と大きく欠伸。伸ばした腕を、それから地面に下ろす。
ぴちゃり、という、音。
水の音。
正しくは――『泥』の音。
黒く、赤い、濁った泥水。海水の様にも、淡水の様にも見える、それ。よく覗けば内で『ナニカ』が蠢いていることが分かる。
常人なら、恐らく。それを見ただけで、発狂する。
それどころか、この空間に足を踏み入れた瞬間に、もはや人ではないものへと変貌するほどに、狂ってしまうだろう。ましてや、泥水の中に足を踏み入れるなどともってのほかだ。
しかし彼女は、その泥の中で眠っていた。
ふらり、と起き上がる。色落ちした長い、白い髪が揺れて、裸で眠っていた彼女の一糸まとわぬ肢体があらわになる。
――そこに刻まれていたのは、巨大な、悪魔の翼のような、総勢14画の紋様。
彼女の裸体にからまるように、漆黒の泥たちもまた、起き上がる。
母性を感じさせる豊満な肉体は泥に覆われ、泥たちはある種ドレスの様にカタチを変えた。
真っ白く色落ちした長い髪をゆらしながら、少女はゆっくりと足を進める。
行き先は決めてなどいない。そもそも彼女は、深い思考自体を行っていない。
唯感じるが儘に。察知するが儘に。
その動向はむしろ、『獣』のそれに近いが故に。
――あぁ。
――おなか、すいたな。
決めた。食べ物を、探そう。
そう決意し、少女は本格的に歩き始めた。ずるずると泥たちもドレスの裾となって付き従う。
「いこ。ビースト」
誰かに話しかける少女。ずるずる、ずるずる、と、泥たち中で蠢く『ソレ』の動きが活発になった。
まるで漆黒の花嫁がヴァージンロードを行くように。彼女は、廃棄されたビルを抜け出した。
喰らうべき『食べ物』を、探して。
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