ターボ婆さん
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白い帯のように街を取り囲むガードレールのカーブに佇み、俺たちは『それ』を待ち構えていた。
この街を取り囲む切り立った山には、峰を繋げるように狭いアスファルトの車道が通り、それは遠くからだと白い帯のように見える。
いつか見ていた夢に似ているな…などと思いながら、俺は離れた峰に続く白い帯を眺める。
「今日は来ないかねぇ…どうだ、見えるか」
だいぶ冷たくなった風が、奉の黒い羽織りを弄るようにして走り過ぎていく。その傍らに申し訳なさそうに佇む眼鏡の少女が、首をすくめて、ゆっくり振った。黒い髪がさらさらと動くのを俺はぼんやり見ていた。
モスグリーンの眼鏡が、初秋の日差しに静かに光っていた。
奉が予言した通りの結果だ。…怖がりなこの人は、それゆえに却って『未来視』を手放せない。
「視えてるものは多分、皆さんと変わらないです…」
俺がぼんやりと静流さんの眼鏡の事を考えている間に、何やら話が進んでいたらしい。
「…ま、限定的のようだしねぇ」
馬鹿馬鹿しい話だが、俺たちはここで『ターボ婆さん』を待ち構えている。
少し前、食堂にて静流さんに声を掛けられた。
船幽霊を退けたという噂を聞いて、自分に降りかかる奇妙な災難を相談しに来たのだった。
結果、彼女は一生、通学に必要な路線バスに乗ることが出来なくなった。そうなると真面目で勤勉な大学生である彼女は、他の交通手段を探さなければならない。その最有力候補が、バス利用に切り替える以前に使っていた自転車なのだが…。
彼女は、自分は自転車がとても遅いと云い張った。おばあさんにも抜かれる程です…と頬を赤らめて云うのだ。
「では試しに乗ってみろ、その婆ぁに抜かれる無様な運転技術を俺たちに晒すがいい」
自分よりヘタレな運動神経の持ち主を愛する奉は、ワクワク顔で自転車を準備した。しかし…
彼女は、決して遅くなかった。
速くもないし、上手くもないが、通学に差し障るほどマズくない。
打ち沈み、呪詛にも似た愚痴をぼそぼそと振り撒く傍らでコップのフチにつける鳥の玩具のように頭を下げる静流さん。その横で俺は、冗談交じりにこんなことを云った。
「静流さんを抜いたのって『ターボ婆さん』だったんじゃね」
「―――ターボ婆さん…100キロ婆さんとも云われる都市伝説の一つだねぇ」
暗い夜道に関する怪談は枚挙に暇がない。と奉が続ける。首なしライダー、白いセダン、幽霊トンネル、テケテケさん…
「けばいねぇ、どうにも。どいつもこいつもキャッチーだねぇ」
「いいバイクで峠越えなんかする奴らのノリを反映してる感じだな」
所謂、リア充ノリというのだろうか。どいつもこいつも、その状況の洒落にならなさに対してネーミングが軽い。
「名付ける者達のノリと妖
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