暁 〜小説投稿サイト〜
霊群の杜
ターボ婆さん
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脇を通り抜けて何かに突き刺さった。静流さんがびくりと肩を震わせて俺の影に身を隠す。
「お迎えに、あがりました。奉様」
「………うむ」
どるん、と狂暴な排気音が威嚇的に響く。視線の先には、紺色の袴を翻して大型バイクに跨るきじとらさんがいた。
「えっ…」
意外な交通手段にも驚いたが、俺はバイクの影に垣間見える『アレ』にビビっていた。俺は咄嗟に奉の方を振り向いた。煙色の眼鏡の、その奥は相変わらず伺い知れない。だが奴も密かに途方に暮れていることは見てとれた。
「あの、きじとらさん?」
「………何でしょう」
氷の刃みたいに冷たく鋭利な声が返って来た。…怖い、女の子超怖い。
「その…『ソレ』に奉を乗せて帰る、と、そういうことで…?」
「何か問題でも?」
きじとらさんは、バイクの横に連結された『サイドカー』にポンと手を置いた。
「さ、お乗り下さいませ」
「……お、おう……」
うっわ、カッコ悪っ。
大型バイクに跨る美少女にサイドカーで運ばれる奉を想像すると、つい噴き出しそうになるがぐっとこらえてスマホを取り出した。
「そ、そうかー、きじとらさん意外ー。かっこいいー。ちょ、奉乗れよ早く!一緒に動画撮ってやろう」
あははは奉、ざまぁ!俺は内心、快哉を叫んだ。静流さんを虐めるからだ。お前も偶にはこういう目に遭うがいい。大爆笑を噛み殺し、微妙な半笑いで撮影アプリを立ち上げていると、いつの間にか後ろに回り込んだ奉に肘をぐいと掴まれた。
「―――お前だけ逃げ切れると思うなよ…?」
「えっちょっ厭…」
厭だ乗らねぇよお前だけそのカッコ悪いサイドカーに乗って帰れ、ときじとらさんの前で云えるはずもなく、俺もサイドカーの後ろ側に引きずり込まれた。
「二人乗っても問題ないだろうねぇ」
「結貴さんの分のメット、ございません」
「えっ!?俺だけ顔丸出し!?」
「何か問題でも?」
「………いや」


怖ぇ!!


きじとらさんの背後に瘴気が揺らめいて見える。俺が鎌鼬で奉を傷つけた時とは質が異なる、黒くてネットリしたやつだ。…俺はこういう方が怖い。その瘴気を視線に絡みつかせたまま、きじとらさんはふわり、と静流さんを流し見た。
「御機嫌よう……静流、さん?」
きじとらさんは失神寸前みたいな顔色で、2回程頷いた。…しょっちゅう周りの空気を伺っている彼女は、きじとらさんの意味不明かつ怨念めいた瘴気をガチで受け止めてしまったのだろう。傍に居てやれなくて申し訳ない。きじとらさんは彼女を一人峠に残し、フルフェイスの奉と顔丸出しの俺を乗せて走り始めた。



「正直な話…よろしくはないねぇ」
自分だけフルフェイスの安全圏で、奉は呟いた。本来ならこの狂暴な排気音にかき消されそうな小さな声だが、不思議とそれは俺に届く。俺はなるべく背を丸めて顔を隠
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