第二十二話 容疑者X
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沈黙が続いた。
「…………」
続く沈黙。この場にはキリトとエギルの二人きり。部屋の外からはここと同じ静けさを伝えるだけ。
静寂に耐えきれず先に根をあげたのは、当然キリトだった。
「エギル、用がないなら俺帰っていいか?明日の準備もあるし」
「お前、さっきなに考えてた?」
言葉を遮って発せられた声は、重く低く部屋に響く。響きは立ち尽くすキリトの耳へと嫌という程にしっかりと重量を持って届いた。
ーーキリトの表情が消える。
ーーエギルの視線が貫く。
それは一瞬。刹那の時間。
されど一瞬。膨大な情報量。
「なんの話だか俺にはわからないけど、別になにも考えてなかったとしか答えようがないな」
不思議そうな瞳で首をかしげる。実際なにを言われているのかわからない。そんな表情だ。
これにエギルは、
「………そうか。ならいいが」
なにを言うでもなく、けれど暗い表情で区切りをつけた。
これ以上ここにいてもすることのないキリトは再び反転して階下に向かおうとしたがーー
「それにしてもなぁ………」
エギルの、ムダに、本当にムダにニヤニヤした気色の悪い笑みが三度キリトの足を止めた。
含み笑いとも言うべき巨漢の表情。
「な、なんだよその顔………」
引き気味に問うが、不気味な笑顔は変わらない。理由はわからないが、まず腹の立つ顔面をどついてやろうと拳を構えた時、
「『“また”添い寝でも』ってのはなぁ〜。もうとっくにそんな仲になってたとは……。若いな、キリト」
「ーーッ!?」
「はっはっはっ、安心しろキリト。誰にも言わねえからよ。しっかりと“愛”を育んでくれ」
さっきよりさらにニヤニヤしているエギル。
この顔から分かるように、
(こいつ、分かってて言ってるな!?)
しかもわざわざ「愛」の部分を強調する手前、完全にキリトをからかっている。
ここまでくると、弁明したところで火に油を注ぐようなものだ。潔く、鑑定料だと腹をくくってこの羞恥プレイを甘んじて受けるほかない。
前のめりにニマニマと笑う彼に、ため息を一つおとし、キリトはゆっくりと拳を構えた。
この後、エギルがどうなったかは割愛とする。
エギルの店を出ると、時刻はすでに夜の8時を過ぎていた。予想外に金も稼げたのでうまい飯でも食べようか、と路地裏を歩いて転移門へと向かった。
この時間帯だ。大通りならまだしもこの細い路地裏に人がいるはずもなく、すれ違う人はすべてNPCばかり。
一人になって数分。思考が過去を振り返る。
頭に浮かんだのは、アスナのトマトも顔負けの紅潮した表情。
叱責や怒号ならば聞
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