第二十二話 容疑者X
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葉を詰まらせたことのない彼女にしては本当に珍しい。
内心で首を傾げつつキリトは返答を待った。
しばし逡巡したのち、アスナは首を軽く横に振りながら、
「………やっぱりなんでもないわ。この件に関してはわたしがやるから気にしないで」
「………? そうか。なら午前中にその人に会って、午後からヨルコさんの話を聞く。こんな予定で大丈夫か?」
アスナの不可解な言動に疑問符は浮かぶが、そこはそれ。正体不明の不安がチリチリとうなじをつついているが、ただの気のせいだろう。
「そうね。それじゃあ明日の朝9時にこの街の主街区の転移門に集合ということで」
キリトはコクン、とうなずいて了承する。が、一名申し訳なさそうに手を挙げた。
「あ〜、すまねえ。俺は一応、商人だからよ……」
「分かってる。鑑定さえしてくれればよかっただけだから。これでお役御免だ」
すまねえな、と浅く頭を下げてエギルはもう一度謝罪した。
言動だけ見れば金勘定を優先する非情な男と思われるかもしれないが、決してそうではない。
彼は恐れているのだ。
この事件に関わり続け、犯人が特定され、当人と相見えた時。
普段モンスターに向けられている激情の焔が、理性を通り越した本能の怒りが、犯人に向けてしまった時。
気さくで、思いやりのある熱い漢がどうなるかなど、想像に難くない。
もちろんそれを理解しているからこその、キリトの軽口による承認だ。
「じゃあわたしはこれから一度ギルドに戻るから、これで失礼するわ。エギルさん、突然押しかけた上に何のお礼もできずにすみません」
立ち上がり、ぺこりと頭を下げるアスナ。
エギルが気にしていないと態度に表すと、顔を上げ、今度はキリトの方に目配せーーというより視線の槍を向けて、
「遅れたら、怒るわよ」
「そっちこそ、今日はちゃんと寝ろよな。なんならまた添い寝でもーー」
「い、いりませんっ!」
アスナは顔を真っ赤にして反論し、すぐさま階段を駆け下りていった。
ははは、とキリトは少しの笑い声をあげる。
ついで、彼女に続くわけではないが、礼を言って帰ろうとして立ち上がった。
「エギル、俺も出るよ。鑑定してくれてありがとな。このお礼はいつか精神的にーー」
「なあ、キリト」
手刀を切って帰ろうとするところを、エギルの声が止めた。やけに真剣な声音だった。
振り返れば、やはり顔つきも変わっている。別段、なにがあるわけでもないのに。それともキリトがそう思うだけで、エギルにはあるのかもしれないがーー
「なんだよ。まだ何かあったのか?」
エギルに対し、おどけるように、肩をすくめてキリトは言った。
それを叱るでもなく、しかし瞳はキリトの表情を捕らえて離さず、しばしの
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