第二十二話 容疑者X
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かうかがえぬその表情は、苦渋の面持ちで。けれど、ともすればーーー
「その人影に、見覚えはあるかな?もしくは、人影に特徴とかがあると教えて欲しい」
思考をよそに、キリトは二つの新たな問いを重ねていた。問いかける様子に先ほどの雰囲気はない。けれどどこか違う。いつもの彼とは何かが違った。
その違いに気づく前に、アスナは脳内から現実へ意識を向けた。
キリトの投げかけた質問は、しかし彼女の否定の態度で解はわからなかった。
そして再びーーー今度は穏やかな声色でーーーキリトが問うた。
「………嫌なこと聞くようだけど……、その、彼が狙われるような心当たりは……?」
キリトが危惧した通り、ヨルコは目に見えて身体を固くした。
確かにイヤな質問だろう。つい数分前に友だちを殺されたばかりだというのに、その彼が殺されるような理由があるかどうかを聞いているのだ。
それはつまり、彼女の友達の善性を疑っているのと変わらないのだから。
アスナはそれを問い詰めることをしない。配慮に欠けたものであることをキリトは重々承知しているはずだ。加えて、避けて通ることのできない質問でもある。
そうであって欲しくはないが、もしカインズ氏が誰かに狙われるような人物なのであれば、そこから犯人を特定できるかもしれない。
それらを加味して、アスナは叱責どころか感謝を贈るべきだと考えていた。
配慮に欠けた質問でも、勇気のいる質問だ。向かってくるかもしれない相手からの不信感を引き受けてくれたことに等しい。
大きな手がかりへの道は、しかしまた、ヨルコが首を横に振ったことで途絶えてしまった。
少なからぬ落胆は表に出さず、キリトは「そうか、ごめん」と短く謝った。
ヨルコから手がかりはなにも得られなかった。
犯人の動機ーーこれはどう考えても《見せしめ》や《処刑》という形での《復讐》だ。
そうでなければあの大衆を前にして殺す価値がない。本人なりのリスクとリターンが必ずあるはずなのだ。
だが肝心の人物像が全く浮上しない。キリトとアスナはカインズ氏の人となりを知らないし、それを知るヨルコも心当たりはないと言う。
けれど、もしかすれば、彼女が知らないだけで恨みを持った者がいるかもしれない。
憶測を交えるのならば外してならないのが《レッド》の存在だ。
奴らは《PK》をすることそのものが存在主義だ。
「自分はいつどこにいたって人を殺せる」という自己顕示欲を満たすためだけに、奴らの言葉を借りるなら《ショー》を行った可能性がある。
それを考慮してしまえば、もはや犯人を探し出すことなど不可能に等しい。ありていにいえば、砂漠で一粒の砂を探すようなものだ。
キリトとアスナは再び同じ結論に至り、出そうになるため息を殺した。
ヨル
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