第二十二話 容疑者X
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き慣れたものだし、怒り顔ならば尚更のことだ。けれど、あの表情は。羞恥に頬を染めて取り乱す様はレア度が高い。
怒らせると怖いのは知っていたが、なかなかどうして。いじりがいが、ありそう、だ……。
「ーーーー」
ふっ、と浮かんできた別の思考。
『お前、さっきなに考えてた?』
キリトの返答は明らかにウソを含んでいた。
ウソそのものだった。
『なにも考えていない』、そんなわけがなかった。
思い出す。
手にした禍々しき彩色を帯びた魔槍。
あれがもし、自分に突き刺さったとしたら。
“罪には罰を”
この世全てのものには意味がある。
昔、誰かからそんなことを聞いた。
ならば、これが偶然という必然に仕組まれた悪意というなら。
厳重に組みこまれたプログラムなどいともたやすく通り抜け、システマチックなこの世界で我執がまかり通るなら。
真に汚れたこの身なら。果たしてーー
「………やめたやめた」
軽く首を振るう。考えても詮無いことだ。
今日はハプニングが多すぎて頭も体も疲れている。
思考のネガティヴさに拍車がかかっているようだ。
さしあたっては明日の朝、しっかりと起きれるかどうかを心配せねばなるまい。
朝に弱いキリトにはなかなか堪えるものだが、彼女に怒られるのだけは避けたいところだ。
「ふぁ〜あ………早く寝よう」
朝早く起きなければならない。そう考えただけで眠気が襲ってくる。
明朝の睡魔との戦いがすでに憂鬱となりながら、キリトは帰路の途についた。
とある宿。
真夜中の部屋に小さく揺れる火の明かり。
微かなロウソクの灯火以外、部屋を照らす明かりはない。あえて言うのなら月明かりが窓から差し込んでいる。
テーブルに置かれたランタンを前に両の手を重ねてうつむく一人の女性がいた。
「………」
ぎゅっ、と握りしめる手には尋常ではないほどの力が込められている。神に祈りを捧げるシスターさながらに。
はたから見ればまるで震えているよう。けれど、開く瞳に弱さなど皆無。
不安はある。しかしそれを殺すほどのものが彼女の奥底にあった。
まだやるべきことが残っている。
自分にそう言い聞かせる。
迷っている場合ではない。
足踏みできる事態ではない。
悩んでいられる時期はもう過ぎた。
すでに明日もスケジュールは埋まっているのだ。
今更後戻りなどできない。始まれば終わるまでこの計画を続けなければならない。
破綻は許されないのだ。
手をほどき、四肢に力を入れて立ち上がった。
コン、コン、コン。
三度のノック。急いで振り返る。決めた合図とは全く違う、普通のノック。
身体が固まっ
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