第三話『終わりと、生誕』
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無理矢理に純潔を奪われ、唯一の取り柄である魔術回路も奪われ、わたしの命はもうこの先立ち行かない。待ち受けているのは『死』のみ。命の終わりが着実に忍び寄り、ただ恐怖だけが心を埋め尽くした。
怖いよ。
痛いよ。
死にたくない。
助けて。
そんな言葉を口にしようとしても、喉はマトモに震わず、掠れ声すらも出ない。その事実に絶望が膨れ上がり、この世界に対する理不尽がふつふつと湧き上がる。
W――その命を奪われW
嫌だ、生きたい。生き残りたい。死にたくない。
お兄ちゃんは、何処?お願い、ここに居るから、たすけて、お兄ちゃん、わたし、お別れしたくないよ。
W――その未来を奪われW
まぶたが重くなっていく。冷たい死はココロの奥底に忍び込み、『もう、諦めようよ』と囁き掛けてくる。いやだ、諦められない。まだしたい事、見たいもの、感じたい事、いっぱいあるのに。
W――絶望の果てに追い込まれても、尚W
声が、聞こえる。幻聴なのかもしれない。終わりが近付き、弱り切ったこの心が生み出した、細やかな虚しい幻影なのかもしれない。けれど、その声に縋るように、わたしは耳を傾ける。
W――あなたは、何を、望むの?W
……何を、望む?
決まってる。わたしが望むのは、たった一つだけ。人並みでいい、特別幸運でなくてもいい。だからせめて、他には何も望まないから、大切な人と共に。
「…………生き……たい……っ!」
焼け付くような、しかし細やかな痛みを感じる。既に奪われ、存在する筈のない魔力回路が肉体に通っていく。暖かな輝きが冷え切った体を温めていく。
脳裏に鈴のような美しい声が響き渡り、『誰か』の指先が目尻の涙を拭った。
そうして。
W――あなたの願い、聞き届けたわ。擬似霊基、『ランサー』、女神の名の下に、あなたを掬い上げて見せましょうW
左腕に刻まれた、紅い印と共に。
W――あとは、任せてW
少女は、生まれ変わる。
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