第三話『終わりと、生誕』
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「――――っ、ぁ……ぁ……」
寒い。
冷たい石畳が、直接触れる肌に暴力的なまでの冷気を感じさせてくる。今や肌から感覚は遠ざかり、とっくに動かなくなってしまった体はもう置物のようにしか思えない。
耐え難い喪失感。悍ましい虚無感。
体から無理矢理に引き剥がされた魔術回路の残滓が、更に奪われたものの大きさを知らしめてくる。下腹部へ重い痛みが常に響き、枯れきった涙は目尻を赤く腫れさせていた。
悲鳴をあげる事すら許されなかった地獄は既に終わっている。けれどその果てに救いなどなく、ましてやどんな傷付いた未来すらも許されていない。何故ならば、この身はあと数刻もせぬ内に朽ち果てるのみなのだから。
ずっと、天才と持て囃されてきた。実際才能があると言う事は自分でもわかっていたし、気分も悪くなかった。家族から褒められて嬉しくない訳がない。
双子の兄に才能はなかったが、彼は私に優しく接してくれた。本来なら家を継ぐ事になっていたのだろう彼を差し置いて、そんな大層な扱いを受ける事にはかなりの抵抗があり、兄には申し訳ないと言う気持ちもあった。けれど、兄はそんな事知った事ではないと、よく話し相手にもなってくれた。
兄は、今どうしているだろうか。
「……おにい、ちゃん」
昔、わたしが一般人として学校に通っていた頃がある。魔術師としての力を身に付けてからは通う事も無くなったが、それまでにわたしは、クラスメイト達に虐められてしまっていた事がある。しかし厳格な両親にそんな事を言ってしまえば、失望されてしまうかもしれない。だからわたしは、その事を誰にも話さなかった。
『――ばか、何で僕に言わなかったんだよ』
ボロボロに傷付いた兄がそんな事を言ったのは、本当に突然だった。
彼はわたしが虐められている事に自分で気付き、その裏を取り、立ち向かって行ったのだ。いじめっ子達の集団相手にも物怖じせず、全身を痣だらけにしてそれでも引かず、執念の果てにそのいじめをやめさせてくれた。
わたしは、それはもう泣いた。自分のせいで迷惑を掛けてしまった、自分のせいで傷付けてしまった。何度も何度も謝って、泣いた。
兄は、そんなわたしをぎゅっと抱きしめて、少し不本意そうな声で怒ったのだ。
『……なんで泣いちゃうんだよ、頑張った僕がばかみたいじゃないか』
その時から、兄の隣だけが、わたしの本当に安らげる場所になった。
魔術の才能があると言われてからも、この力は兄のために使おうと決めた。魔術の才能が無い兄を、今度はわたしが守れるようにと。そう信じて、わたしは魔術の研鑽を続けてきた。
そうして、しばらくして。
――『歪』の家代表のマスターを名乗る、あの男が、やってきたのだ。
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