廃墟の章
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は、マーガレットの埋葬より四日後のことと伝えられる。
こうして平安とは言えなくなったミヒャエルは、マーガレットの死を無駄にせぬため、兄であるヘルベルトが待つであろう王都へ向かう決意を固めた。
「私は兄上を止めるため、王都へと向かいます。本当は宿の再建を手伝いたいのですが、今自分に出来ることはこれだと思うので…。」
ここは聖エフィーリア教会の一室である。ディエゴがレヴィン夫妻を連れ、初めてミヒャエルとマーガレットに出会った、あの地下資料室である。
中は多くの蝋燭が灯され、ある種幻想的な雰囲気を醸し出すが、集まった人々の顔にはそのような幻想的創意を感じることは出来なかった。
ミヒャエルの前に集っている者達の大半は街の市民であった。街長に長老会の人々、ブレーメンシュトラオス亭のマリアに、無論レヴィン夫妻もいる。皆は静かに彼の言葉を聞いていた。そこへ街長が言った。
「第三位とは言え、貴方様は王子なのですぞ。行けば命を狙われる恐れもありましょう。よもや第二王子があの様な卑劣なお方であったとは…。民である我々も知りませなんだが…。」
街長はそう言って溜め息を洩らした。それを受け、ミヒャエルは済まなそうな表情を浮かべて言ったのであった。
「申し訳無い…。兄上が…この様な愚かな行いをするとは考えてもいませんでした。いかな王家とて、これは民に対しての無礼。兄上に変わりお詫び申し上げます。」
そう言ってミヒャエルは頭を下げた。すると街長は慌てて言ったのであった。
「滅相も御座いません!貴方様に何の咎がありましょうや?どうか顔をお上げ下され。私共フォルスタの民は、皆貴方様の味方なのです。」
この街の民には、誰一人としてミヒャエルを責める者は居なかった。真に悪意を持つ者が誰かを皆が知っていたからである。そのためミヒャエルが王都へ向かうと聞くや、この様に多くの人々が彼の元へと集まり、口々にこの街へ留まるようにとミヒャエルを説得していたのであった。
しかし、ミヒャエルは頑なにその言葉を受け入れず、それならばと人々は長旅に苦の無いよう馬と食糧と貨幣を集め、旅立つミヒャエルへと渡したのであった。
こうしてミヒャエルは一人、ヘルベルトを止めるべく王都へ向かって街を出たのであるが、その後、ミヒャエルの後を追うかのようにレヴィン夫妻も王都へと向かったのであった。
そのレヴィン夫妻であるが、ブレーメンシュトラオス亭の主ハインツからミヒャエルへと渡してほしいと、一つの物を預かったのであった。その預かり物がこの後、大きな意味を持つことになるのであるが、それは次に語る事になる。
王暦五七九年春の終わり。これから訪れし波乱の時代の序章とも言うべき年が、こうして静かにその幕を開けたのであった。
「廃墟の章」 完
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