廃墟の章
Z
[1/4]
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
暫くして後、皆は音楽の余韻に浸っていたのであるが、その中で…不意にロレンツォの様子が変わったのであった。まるで別人の様な声で、急に語り出したのである。
そのあまりの不自然さに、皆は即座に振り返った。
「人よ、聞きなさい。再び原初の神の御前へ歩み出で、深き愛を取り戻しなさい。然れど、争いの時は速やかに訪れるでしょう。この王国のみならず他国も同様、罪の火種は今にも大火を成して姿を現すことになります。人よ、聞きなさい。争いは止まることを知らず、それは新たなる王によりてのみ消し去ることができましょう。故に、皆愛を取り戻しなさい。それは親愛・友愛・家族愛・慈愛…総ての源であり、あなた方人々の歩みし路なれば、今こそ愛を取り戻し、全てを愛しなさい。原初の神を自然を動物を…そして人を。愛もて総ての法と成せ!人よ、聞きなさい。あなた方のうち二人は、速やかに神の御下へと引き寄せられます。然し、忘れてはなりません。全ての善なる者等は、必ずや神の花園にて再び出会うのです。愛、即ちそれが法となるでしょう。」
そこまで語ったロレンツォは、そのまま床へと頽れたのであった。
皆は余りのことに恐れおののき、暫し動くことも儘ならなかった。しかし、ミヒャエルはどうにか気力を絞り出し、倒れ伏したロレンツォへと駆け寄った。
「ロレンツォ…!?」
ミヒャエルは彼を抱え起こしたが、ロレンツォは既に息絶えていたのであった。それを知ったマーガレットは困惑して呟いた。
「何故…?何故にこのような…!?」
無理からぬことであろう。最初は訝しく思いはしても、ここまでの道すがら、彼から多くの話を聞かせてもらい、それによって多くを学べたのである。その様な人物が、何の前触れもなく突然天へと召されたのであるのだから。
「聖エフィーリアよ…何故この様な…。」
涙を流すマーガレットを抱き、兄弟の聖画を見上げてミヒャエルは問い掛けた。レヴィン夫妻は、そんな二人を成す術もなく、ただ静かに見守るしか出来なかったのであった。
正直に言えば、レヴィン夫妻には、そこはかとなくこうなることを予期していたのである。
神託とは則ち、自らの体へと聖なる力を受け入れて成すものであり、その対価として命を削ることになるのである。そのことをレヴィン夫妻はよく知っていたのであった。
時の預言者達、特に神に直接選ばれし預言者達は、預言を始めて数年で生涯を終えている。
しかし、二つの例外が存在し、一つは預言者に選ばれて後四十年以上生き続けた聖マルグリアと、たった一言だけ言葉を紡いで目を覚ますことの無かった聖エマヌエルがそれである。
後世に残された文献に因れば、このロレンツォは計十二回の神託を告げたとされているが、彼が廃墟に入った年は知られておらず、それを知る手掛かりとしてコロニアス大聖堂の聖職者記録が
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ