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SNOW ROSE
廃墟の章
Z
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ある。
 ロレンツォは約三年間コロニアス大聖堂にいたが、王暦五七六年九月二十一日に大聖堂を出ている。それ故、現在は翌年の五七七年の六月頃には、あの廃墟へと入っていたのではないかと言われている。
 ロレンツォより初めに神託を受けた人物はレオナルド・ロッタで、後の大司教になる人物である。このロッタが五七八年四月終わりに神託を受け、それからミヒャエル達が神託を受けるまで約一年。こういうケースは今まで無かったことで、それまでの預言者とは少し違っていたと言えよう。
 さて、四人はこの預言者を丁重に葬った。廃墟とはいえ、大聖堂の裏には整備された墓地があり、その一角、もっとも陽当たりのよい場所に彼の墓所を作ったのであった。
「ヨゼフさん、墓穴を掘り終えましたが…。柩を用意出来ないのは…何とも…。」
 ミヒャエルが汗だくになりながらヨゼフへと言うと、それに答えるかのようにエディアが彼にあるものを見せた。エディアが持っていたそれは、上等の絹であった。
「これを使って下さい。」
 それは、誰から見ても高価なものだと解った。普通、死者のためにこれ程の布を使うことなど有り得ない。しかし、柩の代わりになる様な物は無く、それにこれ程の預言者を葬るのであるから、むしろこれが最良であろうと皆が思った。悲しげな笑みを見せつつエディアより絹を受け取り、ミヒャエルはその絹でロレンツォを静かに覆って皆の前で彼を墓穴の底へと横たえたのであった。
「預言者は神の御言葉を告げる代償に、自らの時を磨り減らしておるのです。しかし、その預言の言葉は生き続ける。預言者の魂が神によりて永久に生かされるが如くに、言葉は永き時を越えて生きるのです…。」
 墓穴へ横たわる死者へと向かい、ヨゼフは囁くように言った。そうして後、ヨゼフはエディアと共に楽器を手にし、眠りし死者のために葬送音楽を奏したのであった。
 この場で演奏されたのは、古き葬送音楽だったと伝えられている。
 一説にはシュカ・マリアンネ・フォン・リューヴェン作のものとも言われているが、この原譜は失われており、中間部の六頁のみが筆写譜で残されているだけである。しかし、このシュカの葬送音楽だったとしたら、作曲者そのものが伝説上の人物故、預言者を神の御下へ送る手向けに足るものであったに違いない。
 レヴィン夫妻の演奏は、約一時間にも及び、その中で埋葬の儀式が行われた。マーガレットは涙を拭いつつ、森のあちらこちらから美しい花々を摘んでロレンツォの横たわる墓穴へと散らした。そしてミヒャエルは、神への祈りと死者への言葉を述べて後、少しずつ土をかけていったのであった。
「フォルスタの街へ戻りましょうか…。」
 演奏を終えたヨゼフは、静かに皆へと言った。三人は皆一様に首を縦に振り、同意の態度を示したのであった。
 ロレンツォを葬ったその日の内に
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