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SNOW ROSE
廃墟の章
Y
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ヴィン夫妻は荷物より楽器を取り出し、ヨゼフはヴァイオリンを、エディアはトラヴェルソを手にして構えたのであった。
 残念ながらジョージが得意としたリュートは、もうこの時代には殆んど廃れてしまっていたのであった。運ぶには大き過ぎて不便ということや、弦が多くて扱いにくいことなどが原因として挙げられよう。
 しかし、このレヴィン兄弟の音楽は、様々な演奏家の編曲によっても伝えられ広く知られているのは、兄弟の音楽が如何に愛されてきたかが窺えよう。
 確かに、歴史的名演奏家によって編曲され続けたからこそ、兄弟の曲が残ったとも言えよう。だがそうだとしても、原譜の失われた兄弟の音楽の大半が伝えられ、それが多くの人々に愛されているという事実に、一体何の疑いがあるというのであろうか?兄弟の音楽そのものに魂が宿っていると考えたとして、それを過言とは誰も言えまい。
 話を戻すとしよう。
 レヴィン夫妻は手にした二つの楽器で、ケインが兄のために作曲したと伝えられるソナタを演奏した。緩-急-緩-急の四楽章からなる教会ソナタ形式によるもので、この大聖堂で演奏するには相応しい曲であった。この曲も例に漏れず、後世の演奏家による編曲である。
 原曲はブロックフレーテとチェンバロ用であるが、それをヴァイオリニストのディオス・アッカルディアがトラヴェルソとヴァイオリンのために編曲したものをレヴィン夫妻は演奏したのであった。
 夫妻の奏でる音楽は、この大聖堂の高い天井を伝って全体に響き渡った。その美しさ足るや、大聖堂そのものにも引けをとらないものであり、夫妻の調べを初めて耳にするロレンツォは、その響きの美しき調和に暫し時を忘れたのであった。
「何と美しい…。まるで天より御使いが舞い降りて来るようだ…。」
 夫妻の演奏が終わって後、ロレンツォは感嘆の溜め息とともにそう呟いた。無論、マーガレットとミヒャエルの二人もロレンツォと同様、感嘆の溜め息を洩らしていたのは言うまでもないであろう。
「ありがとうございます。聖画とはいえ、こうして祖先の前で音楽を奏でることができ、我等も嬉しく思います。旅をして、本当に良かったと思いますよ。」
 ヨゼフはそう皆に言うと、傍らのエディアと共に笑みを溢した。それから再び兄弟の聖画へと視線を移し、夫妻は兄弟がどの様な演奏をしたのかと、遥かなる時代に思いを馳せたのであった。




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