暁 〜小説投稿サイト〜
SNOW ROSE
廃墟の章
Y
[3/5]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
場合、小さな村へ集め火を放つべし”と。」
 皆は身震いした。確かに、打つ手なしの疫病を封じ込めるには、こうした非道とも思われることをしなくてはならなかったであろうが、これではあまりにも惨いと言うものであろう。そこでミヒャエルはロレンツォに聞いた。
「その疫病は…本当に治療は出来なかったのか?」
「ええ。俗に言う“雪薔薇病”だったと言われています。もしこれが蔓延したならば、今の王都の医者でさえお手上げです。ですが、このコバイユから旅立った民の一部は、無事王都へ入ることが出来たそうです。しかしその時には、既に二十数名しかいなかったそうですが…。」
 困難の時代はあったのである。戦などの人災も恐ろしいものではあるが、こうした未知の天災はそれ以上に恐ろしいものであった。それを踏まえた上で、ロレンツォはきっぱりと言ったのであった。
「王はこうでなくてはなりません。たじろいで国を滅ぼすようなことになれば、これだけの被害では済まなかったでしょう。」
 それを聞いた四人は驚きの表情を見せた。要は、この王の決断は正しかったと言っているからである。それに対し、ミヒャエルはロレンツォに問った。
「では、無意味に亡くなった人々はどうなる?死ななくて済んだかも知れないじゃないか!?」
 その問いに、ロレンツォは溜め息を吐いて答えたのであった。
「王は国を守らなくてはなりません。たとえ非道だとしても、民の一人一人に至るまでの責任は王とて負えず、それは個人で背負うべきもの。人災であれば責任の取りようもありますが、天災…それも不治の疫病では、人間である王では手も足もでません。それこそ人の運と言うもの。王は器としての国を守り、我々国民はその中を守り抜かなくてはならないのではないでしょうか?王とは即ち国の天秤。自らの善悪だけで判断出来ない国の象徴であり、力を持ちすぎた偶像であり…。何とも難しい地位と言えますね。」
 ロレンツォはそこまで言うと、そこで話を切り上げて歩き出した。ミヒャエルとの話は、恐らく平行線を辿るだろうと感じたからである。
 一方のミヒャエルにしても、これでは堂々巡りになると思い、そのまま口を鉗んでロレンツォの後へと続き、他の三人も口を挟むことをせず、黙ったまま二人について歩き出した。
「気を取り直し、大聖堂の中をご案内しましょう。」
 大聖堂の正面扉の前でそう言うと、ロレンツォはその大きな扉を開け放った。そして、皆はロレンツォに続き大聖堂内部へと足を踏み入れたのであった。
 大聖堂の中は、あのフォルスタの聖エフィーリア教会に近い装飾が施されていたが、それとは比較にならぬ程の緻密な設計がなされていた。天井画やそれに続く周囲の壁の聖画や彫刻は、空の向こうの遥かなる宇宙を連想させるものであった。だがそれよりも、初めて訪れた四人は別のことでも驚かされてしま
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ