廃墟の章
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洪水で死んだ動物や人間の亡骸が放置されたままとなっていたため、それが原因で疫病が発生したとされている。その上、疫病にかかった人々が救いを求めて別の街や村に入った際、その患者から街や村全体に疫病が広がったのである。
「大災害前は日照りが続き、民衆の体力は衰えていたんです。その中に数人の疫病患者が入ってきて、街中に広がったのだと。コバイユの街は僅か十数日で民衆の三分の一が、その疫病にかかったと記されてました。」
四人は静かにロレンツォの言葉を聞いていた。それは遥か昔の話ではあったが、この場で聞いていると、まるで今、自分達の周囲で人々が慌てふためいているのではないかとさえ感じていた。
この大災害のあった頃、この国…いや、大陸は疫病に関しての知識は乏しかった。医者や薬師も未だ少なく、コバイユの街ですら医者が一名と薬師が二人居ただけであり、とても疫病をこの街で食い止める力なぞ無かった。そのため、薬師の一人は王都へと馬を走らせ、このことを王へと伝えに出たのであった。だが、時は既に遅かったのである。その薬師が戻る前に、街長と医者が相継いで疫病にかかり、間も無くして亡くなったのである。それを知った民衆は恐怖におののき、病人と街を見棄て、住み慣れた街を去ってしまったのであった。
「その薬師が戻ってきた時、街は既に屍の山となっており、残っていたものは大聖堂の神父達ともう一人の薬師だけだったそうですよ。そして…最後まで生き残っていたのがネイヴィル神父だったんです。」
皆は思った。この最後の神父は、その悲惨な状況下で何を感じたであろうかと。ロレンツォによれば、人口の六割が疫病によって天に召された。それは初期の話であって、街が放棄されるまでは約半年の期間があったのである。それも、周辺では人々が疫病によって毎日亡くなっていたのであるから、いかな神父とは言え、相当な恐怖を感じたに違いない。それを乗り越え、一人になってから十四日後まで日記を記していたというのは、四人の想像を絶していたのであった。
「しかし…それも仕方無かったんですよ…。」
「どうしてですの…?」
ロレンツォへマーガレットは問った。それは聞いてはいけない問いだったのかも知れない。ロレンツォはいつもとは違い、やけに口を重くしていたからである。
だが、聞かねばならぬ様な気がしてマーガレットは問い掛けたのであった。
「ネイヴィル神父が街を出なかった理由は、王命によって、王都へと通じる全ての道を封鎖されたからでした。」
誰もがその言葉に、自分の耳を疑ったのであった。しかし、それだけではなかった。
「王命はこうだったと書かれてました。“疫病を防ぐため、王都より二つ目の街より北は全て封鎖し、一歩たりとも民の行き来を許してはならない。それより先は石灰を用い、骸を発見しだい焼却すべし。尚、数多の死者がある
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