第51話『ユヅキ』
[1/7]
[8]前話 前書き [1]次 最後 [2]次話
1人の少女がいた。
彼女は希少の鬼族の血を受け継ぎ、とある北国の王の娘という、大変立派な身分で産まれた。
だが言葉が話せるようになった頃、鬼という存在を、また、己の血は望まないものだと、彼女はハッキリと口にして、自分の一族を拒んだ。
両親との喧嘩の始まりは、それだったかもしれない。
少女は家を飛び出した。
もう、この街で過ごしたくないと。
当てなんてなく、無我夢中で逃げるように走った。
そして、王都に辿り着いた。
人の多さに驚き、品物の種類に驚き、何より1人の男性の優しさに驚いた。
少女が独りで王都をさ迷っていると、彼が声を掛けてきたのだ。
中々の悪人面だったので、初めは警戒していたのだが。
しかし、彼にたくさんの世話をしてもらうようになり、彼が恩人だと感じるようになった。
そのおかげで、幼かった少女は生き残れたのかもしれない。
そして、故郷より王都で暮らした時間の方が長くなった頃、少女は1人の少年に出逢った。
友達が欲しかったということもあり、少女は彼の言うことを素直に受け入れた。
すると、そこから2人が仲良くなるのに、時間はそう掛からなかった。
そして彼の優しさに触れ、少女はいつの間にか、彼と“友達”では物足りないと感じ始めていた。
彼となら、どんな困難にも立ち向かえるし、
彼となら、どんな喜びも共有できる。
彼となら……どんなことでもできる。
だから、ずっと一緒にいたいと、そう思い始めたのだ。
*
「いたた…無茶し過ぎたな…」
お腹を押さえながら、痛みに堪えるユヅキ。
彼女は今、とある建物の裏に身を置いている。
建物を挟んだ向こう側では、熾烈な争いが起きていることだろう。
ちなみに、こんな目に遭ったのは、自分の浅はかさが原因である。晴登を集中的に狙うヒョウを、“隙”だと判断してしまったのだ。
そして、覚悟を決めて飛び込んだ結果、返り討ち。骨は折れてないと思うけど、内蔵をいくらか揺らされていて苦しい。
「早く戻らなきゃいけないのに…」
晴登には、しっかり休めと言われている。
しかし、自分が休息しているこの間も、晴登とミライの2人は戦い続けているのだ。
1人だけのんびりしているなんて、自分で許せない。
だけど、身体の痛みは思うように退かず、苦しくも待たざるを得ない状況だった。
「ハルト…」
ユヅキは見えない彼を想う。
初めて会ったときは、何とも一瞬だった。よそ見をしていたら、急に彼とぶつかったのだ。
何とか平静を保ってその場を逃れたが、心底ビックリした。それにしても、まさか話しかけてくるとは・
[8]前話 前書き [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ