同棲時代の封印
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冷たくなった晩秋の風が吹きすさぶ11月。
外の寒さを思うと体が震えた。
3年も過ごしたこの部屋を離れ、俺は…俺たちは、別々の個人となる。
背を向けて荷物をまとめる、沙也加の顔は見えない。…きっと、何の感情も浮かんでいないか、失望や軽蔑…いや諦観か。そんな表情を浮かべているのだろう。…俺は、どんな顔をしているのだろう。
私が出ていくよ。あんたはここに居たら。
沙也加はそう云ったが、とてもじゃないがそんな気持ちにはなれない。一緒に過ごした3年が作り上げたものが重すぎて。だから俺たちはこの狭い4畳半にぎっしり詰まった全ての荷物を二つに分けて、ここを離れるのだ。
「サイドボード、どうする」
「あげるよ。あんたのDVDしか入ってないでしょ」
「ブルーレイだというのに」
「………どっちでもいい」
つまらなそうに呟く。…どちらかというとずぼらな彼女と神経質な俺は、こういう小さな衝突を繰り返した。…3年も。小さな価値観の違いはいつしか、大きな溝となって俺たちの間に横たわっていた。だから…俺は沙也加を憎んでいない。きっと沙也加も。ただもう、互いに『無理』になっていったのだ。
「冷蔵庫は」
「それは頂戴」
「テレビは俺が貰っていいか」
「それは…あとで決めよ」
淡々と荷造りをしながら、簡単な相談をする。暫く荷造りに集中していると「ねぇ」と沙也加から声がかかる。…ごとり、と重い音がした。…随分大物が残ってたようだが、何だ一体。
「これ、あんたの?」
「これって…」
―――なにこれ!?
青だか茶色だか分からん分厚い陶器の壺。それにフジツボがびっしりくっついている。所々に釉薬がついてたっぽい跡があるが、フジツボと水の浸食で禿げまくっている。そして多分…アスファルトか何かでしっかり封をされた木の蓋に『封』と書かれた紙に似た材質の何かで出来た札が貼られている。
なんて不吉なんだ。フジツボの一つ一つから瘴気が漏れできてそうだ。
「…いや知らねぇよ。自分で買って忘れたんじゃないの」
「私がこんな気持ち悪いもの買うわけないでしょ!?」
狭い四畳半に突如、沈黙が走る。
「…じゃあ、俺たちがここに入る前から…?」
「それは絶対ない。見て」
沙也加は元々壺が置いてあった押入れの奥を指さした。敷き詰められた新聞紙に、丸い凹みがある。
「この敷いてある新聞…3年前のやつだよ」
そう、俺たちが敷いた新聞だ。ということは、この壺がここに置かれたのは、俺たちが新聞を敷いた後というわけか。
「俺たちのどちらかが忘れているのでは…」
じとり、と沙也加に流し目をくれる。なくす、忘れるはお前の担当だな?
「…絶対違う。私、中古嫌い」
「中古ってお前…」
これなんだよ。骨董と中古を一
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