同棲時代の封印
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ょう。あーあ、と呟きながらスプレーを構えた瞬間
壺の封が少し開き、細長くて黒い何かが鞭のようにしなり、ゴキブリを掴んで壺の中に吸い込んで消えた。
「なっ……!!」
俺はビビリ過ぎて声すら出なかった。「な」とか云えた沙也加すげぇ奴だ。
「………あれ?『封』は?」
ようやくその一言だけ絞り出した。
「えっと…『本体』は、出てこれないぞっ…と」
「…それ以外は、割とフリーダム?」
「……ぽいね」
俺は瞑目して上を向いた。そう…認めたくない事実を、ゆっくり咀嚼、嚥下するために。
「―――沙也加よ。コレ、捨てたら呪われる系の何かだ」
俺の声にかぶるように、壺の下の方から『ぽい』みたいな感じで6本の脚が転び出た。…これか、無数の脚の正体は。
「…脚の食感、嫌い、みたいな?」
「好き嫌い…判明したな。昆虫の脚が嫌い、と」
「…それが何の慰めになる。『かわいいトコあるじゃ〜ん』とか思うならあんたが引き取れ」
沙也加の顔面は既に蒼白だ。
「…いや考えてみろ。俺たちだって海老を調理する時」
「脚を取るから何!?あの壺の中でエビチリ的なもの作ってるとでも云いたいの!?」
「つまり中のひとは割と人間の感覚からそう離れていない感性を持っているということだ。…どうだ、沙也加」
突然一人暮らしでは何かと不安だろう…と云いかけた瞬間かつてない勢いでぶん殴られた。
「なに押し付けようとしてんだよっ!!」
殴られた弾みで玄関の辺りまで転がる。ドアの隙間からとんでもない冷気が入り込んできて、俺は思わず小さく声を上げた。
「さっむ」
―――ん?寒い?
「…なぁ、沙也加」
「なに!?」
「今日、暖房つけてたか?」
「つけてないよ!!うち、エアコンほとんど使わないじゃん!!」
「それなんだよ」
思えば変な物件だった。こんな安アパートで暖房も冷房も、ほぼ稼働させたことがない。異様に快適なのだ。これは少し変じゃないか。そう云うと沙也加は「南向きだからじゃないの」などと流そうとしたが。
「夏も涼しいな」
「それは…うん、なんでなのか……げ」
沙也加の口から、カエルの呟きみたいな声が漏れた。
「どうした、仲間のカエルが遊びにきたのか」
「殺すぞ。…ちょっと、なんかこの壺、微妙に生暖かいんだけど」
「えっ」
「やだなにこれ体温!?」
少し触れては手を引っ込める沙也加は放っておくとして、今俺の脳内に、とてもいやな仮説が浮かんだ。
「おい、ドライヤー借りるぞ」
返事を聞く前に俺は沙也加のドレッサーからドライヤーを引きずり出し、コンセントを繋いだ。そして熱風を壺の肌にあて続ける。ちょっとやめてよ!と叫ぶ沙也加を無視してあて続けていると、壺の肌が少しずつ……
ひんやりと冷気を放ち始めた。
「
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