先恋〜新しい日々〜
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住み慣れた家の前、立ち尽くす少年、遂にその日が来た…。
「さよなら…、今までの僕と…__…」
名前を呼ぶことは許されるのか…陸太は俯き、もう一度だけ…と願う。
「さよなら……、瑞木さん…__。」
もう此処には戻らない。昔のあの場所に行くだけ。全てを捨てる為に…。
「…会いたいよ…陸太君…」
沙奈は新たに勤める学校へ行く用意をしつつも、鏡に映る自身が身に付けるペンダントを見つめ、愛おしそうな目をする。別れても尚、愛おしい。昨晩もただただ泣き続けていたが、心の中に陸太が居ると思うと、何故か少し気持ちが楽になった気がした。
「…声…聞きたいよ…、会いたいよ…」
ペンダントを握り締め、目を閉じる。
「沙奈さんっ??」
陸太が両手を広げ、微笑み、沙奈を抱きしめる……幸せな時間…、感覚などない。ただの妄想に過ぎない。それでも幸せだった。心の中に好きな人が居る。何時でも居る。
沙奈にとってそれは幸せだ。だが、互いにそれが幸せだとは限らない。陸太にとっては…
「…早く…忘れなきゃ…、瑞木さんのことを覚えていても、何もならない…想っていたからと言って、あの頃に戻れる訳じゃない…」
陸太は目を閉じ、奥歯に力を入れる。背後から、母の声が聞こえる。時間だ。
「もう、会わない、さよなら…、」
離れたくは無い。この場所は、この家は、好きだった。でも、もう此処にいることは許されない。もう、何も無い。
車の中、窓から景色を見ながら心を空にしていく。少しずつ、少しずつ、空にしていく。忘れられる様に、1ミリの未練も残らない様に…。
「陸君、これ運んで!」
「うん、」
新居へ着くと、ダンボール箱にしまった皿やコップを運び込む。全てを運び込んだ後、陸太は自室となる部屋へ入る。見渡し、「…うん、綺麗な部屋…」と呟く。それでも、どこか寂しい。陸太はそんな気持ちはただの感じ外だと自身に言い聞かせる。
「…此れから新しい学校に通って…、好きな人を作って……新しい人生を楽しく過ごせば良んだ…。」
もう会うことなんか無い。会うとしたら、態々電車に乗って、離れた場所に行き、偶然会う位だ。そんな低確率でも出会ってしまうのなら、運命と言わざるを得ないだろう。だがきっと、そんな事は無いはずだ。自分達はそんな関係では無い。ただの教師と生徒。
「…でも…」
陸太の頬を何かが伝う。
「すごく…すごく……」
目から流れるそれは、頬を伝い、落ちる。
「…楽しかったなぁ…っ!」
出会わなければ、こんな事にはならなかった。いや、出会っていたとしても、愛さなければ良かった。その想いを留めておけば良かった。そんな事も出来なかった、そして、愛する人を不幸にしてしまった自分が、たまらなく…憎い。不幸にならなくても良かった人を、不幸
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