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SNOW ROSE
廃墟の章
V
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ある。全てを一人で遣ろうとしても出来っこないのである。そう、マリアやベルディナータが居てくれたからこそ、ここまでやってこれたのである。
「そうだな…。忙しい時期には、一人雇い入れれば良いだけの話だ。よし、音楽をやろう。」
「そうこなくっちゃ!」
 吹っ切ったハインツを見て、ディエゴは笑みを溢した。
 周囲にいたマリアやベルディナータ、それにレヴィン夫妻やマーガレットにミヒャエル、そして集まっていた客達からも拍手が沸き起こったのであった。
 その中に、教会の守役であるコリン・マッカイと言う人物がおり、その時彼はハインツにこう提案を持ち掛けたのである。
「ハインツさん。是非、あの聖エフィーリア教会の大オルガンを演奏して下さい。もう何年も演奏されてはいませんが、常に整備はしておりました。月に一回程度でも宜しいので、あの大オルガンを響かせてやって頂きたい。」
 元々オルガニストであるハインツにとって、これは願ってもない話である。レヴィン夫妻やマリア等も「受けるべきだ。」とハインツに言ったが、それを言われなくとも彼の答えは既に出ていたのであった。
「私で良ければ、喜んで弾かせて頂きます。」
 ハインツの答えに、店内は再び拍手で溢れたのであった。
 このハインツ・ケリッヒは後に、名オルガニストの一人としてその名を大陸中に響かせることになる。残念ながら、ハインツは一曲も自作を残さなかったのであるが、守役であったコリンは作曲家でもあったため、ハインツに十二曲のファンタジアとフーガを書いている。他に、当時の最も名高い作曲家カール・フリードリヒ・ファッツェが、彼のために六つのトッカータと三つのパッサカリアを作曲し、ハインツが如何に優れたオルガニストであったかを今日に伝えている。
 ハインツが鍵盤奏者及び指揮者として活躍したのは、およそ三十年間であるが、その間に二度の戦を経験している。その際、彼は慈善演奏会を催し、多くの人々の心を癒したのである。それにより、晩年には王より異例とも言うべき勲章を授けられているが、その王とは、彼と面識のある人物であった。しかし、これらはまだ先の物語である。
 さて、演奏も終りを迎え、最後に誰もが耳にしたことのある曲を演奏することになった。その曲とは、レヴィン兄弟とも縁の深いリチャード・ライヒェ・フォン・フォールホルスト男爵が書いた詩集「敬虔で創造的な詩」第一巻からの一編に、友人であったサンドランドと言う人物が曲をつけた合唱曲であった。この曲も合唱なしの編曲で演奏されることも多い曲であるが、旋律にジョージ・レヴィン作のカンタータからの旋律が用いられていることでも知られていた。この旋律は国歌にも用いられており、国の人々がこの旋律を大変好んでいたことが窺えよう。
 そして演奏が静かに始まると、人々は皆席を立ち、音楽に合わせて口々に
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