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SNOW ROSE
廃墟の章
V
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同意したのであった。しかし、ハインツは苦笑いしているだけで、どうしたものかと思案している風であったため、ヨゼフはここぞとばかりにハインツへと意見したのであった。
「どうですかな?あなたの腕前は金に値するものです。それを使わないままというのは、教えて下さったご両親にも申し訳が立ちますまい。」
「ヨゼフさん。そうは言われますが…」
 さすがのハインツも、そう言われ困り果ててしまった。それに間をおかずして、マーガレットが言葉を繋いだのであった。
「ハインツさん。あなた、そんなに音楽が嫌いなんですの?そうではないとお見受けしますが?人生なんて一度きりなんですし、好きなことを我慢して何をするのでしょう。私が申すのも甚だしいですが、これだけ大勢の喜ぶ方が居りますのよ?何を躊躇っているのです?」
 この宿“ブルーメンシュトラオス”亭を守ることが、これまでのハインツの生き甲斐であった。たとえ音楽が断たれたとしても、両親の遺してくれたこの宿を守ることが…。しかし反面、小屋に楽器を置き、諦め切れない想いで音楽を奏していたことも、事実として否めなかったのであった。
「あなた…。宿の方は私とベルディナータさんとで何とか回せますわ。あなたはあなたの好きなことをしても、決して罰はあたりませんよ。神様だって、ちゃんと見て下さっていますもの…。」
 考え込んでいるハインツに、マリアはそっと囁いた。するとハインツは、傍らのマリアを見つめて言ったのであった。
「それでも良いと…?でも僕は、このままでも充分…」
「あなた。あなたの才能は、この私がよく知ってます。その才能を殺してはいけないと、私は常々思っていたんですよ?だから…これは良い機会だと考えたんです。ねぇ、私達のため、そして皆のために音楽を奏し続けて下さらないかしら…。」
 ハインツは迷った。今すぐ答えを出せるようなことではないにせよ、彼が音楽を生業としたかったことは、妻であるマリアには分かっていたことであろう。しかしながら、この宿を片手間にすることなど、ハインツにはどうしても出来ないことであった。だからと言って、音楽だけに集中することも、今のハインツには考えられないことと言えた。それ故、こうして趣味程度に演奏を楽しんでいたのである。両立出来るのであれば、とうにやっていることであり、やはりこれはやめた方が無難だとハインツは判断し、その考えを口にしようとした時であった。ベルディナータの手伝いをしていたディエゴが厨房から出てきて、ハインツに溜め息混じりに言ってきたのである。
「なぁ、ハインツ。どうしても無理と言うワケじゃないだろ?この店だってお前一人で切り盛りしてるわけじゃなし、回りをもう少し信用しても良いんじゃないのか?」
 ディエゴのこの言葉に、ハインツは目を見開いた。一人で出来ることなど、所詮は限られているもので
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