廃墟の章
I
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物を運んでくれたハインツに声を掛けた。
「ハインツさん。私達は祖先にあたるレヴィン兄弟の墓所を探しに来たのです。何か知っていることはありますかな?」
「兄弟の墓所ですか…。確かに、この街や奥の廃墟には可能性があるでしょうが…。この街を訪れるお客様にそういう類いの研究家の方もおられますが、結局見つからなかったそうです。年々森も広がってきていますし、ともすれば、あの廃墟の奥にあるかも知れませんがね…。」
ハインツは済まなそうに夫妻へと答えた。
「そうですか…。では、あの廃墟の名は分かっているのでしょうか?」
「ええ。歴史家の間では、サッハルではないかと言われています。このフォルスタの街が、古くはドナと呼ばれていたようで、この窓から見えるあの教会が、その証だとか。」
ハインツは夫妻を窓辺へと招き、そこから教会を指差して言った。
この街にある教会は王暦百年に合わせて建設されたもので、王暦九十年から十年の歳月を掛けて建造されたと教会の古文書には記されている。しかし、時代が変わるごとに建て増しされ、多種多様な技法が用いられていることでも有名であった。特に、施された彫刻や内側に描かれた絵画や宗教画は、その時代の一流画家によるもので、国の文化遺産にもなっているほどである。
だがしかし、その教会とは正反対に街は衰退の一途を辿り、その栄光の名残として教会だけが取り残されたようにも見えたのであった。
「そうですな。あの聖エフィーリア教会は、在りし日の夢を見続けてるのやも知れませんな…。」
「あなた、それは少し違うのでは?私には栄華を伝えている様に思えますもの。」
レヴィン夫妻はそう意見を述べたが、ハインツにはそのどちらも正しく、またどちらも違うような気がしていた。
この街に建つ聖エフィーリア教会は実のところ、現在では使用されていない。言ってしまえば、観光用の建造物と化していたのである。
この当時、プレトリス王国の国教に指定されていたのは、時の王リグレットを奉ずるリーテ教であり、大地の女神エフィーリアを奉るヴァイス教ではなかった。この二つは共に原初の神を頂点としてはいるものの、教えが全く異なっているのである。
この国教指定を行ったのは時の国王グレコムW世であり、生前騎士であったとされるリグレットを国を挙げて奉じたのは、大陸に戦の気配を感じていたからかも知れない。現に、隣国のヨハネスやリチェッリは戦力を増強し始めており、いつ条約を破って戦になったとしても不思議ではなかったのである。
そのような不穏な時代に入って早三十数年の月日が流れ、大陸にある教会の大半が大地の女神を奉ずるのことをやめ、時の王を奉ずるリーテ教へと改宗していた。その流れに反抗し続けた教会は、このフォルスタの街の教会のように無人と化してしまったのであった。
これも歴史の
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