間章V
たゆとう光
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いた時、少し離れた場所から誰かが呼んだ。
「シュターツ侯爵夫人!」
二人を呼んだのは、先に帰郷していたアイリーンであった。
二人はアイリーンをみるなり顔を見合せ、すぐにアイリーンの元へと駆け寄った。
「どうされたんですか?今は御実家の方で…」
側に来るなり、クルトは早々に質問した。普通であれば、このような場所で侯爵夫人が供も連れずに外出するなぞ有り得ない。まぁ、王都でも供は連れてはいなかったのであるが…。
「父様に、マリーを偲んで浜辺へ行くと言ってきましたの。お二方もご一緒するかと思いまして…。アヴィさんには、是非来て頂きたかったので。」
「え…?僕があの浜辺に入っても良いのですか?」
アヴィは驚いた。前にも語ったが、あの浜辺一帯はマリーの家、つまりノベール家所有の土地なのである。マリーを失った今では、アヴィに浜辺へと入る権利はないのである。
「何を言ってますの?父様にアヴィさんが生きていることを話しましたら、大変喜んでいましたわ。浜辺へ入るななどと、誰も申しません。」
それからアイリーンは、もう一つのことを告げてアヴィを驚かせた。
「父様は、あなたをノベール家へ養子として迎えたいとも言っていたわよ?」
「え!?」
あまりのことに、アヴィは言葉に詰まった。確かに、アヴィは天涯孤独の身となった。家族と呼べる人は一人もいないのである。
考え込むアヴィを見兼ね、クルトは彼の肩を叩いて言った。
「アヴィ、今すぐどうこうという話じゃないんだ。ゆっくり考えてから結論を出しても良いじゃないか。今は浜辺へ行こう。」
クルトにそう言われたアヴィは、「そうですね…。」と言って微笑んだ。
暫くは無言で歩き、秋の紅き陽射しに染められた美しい街並みを、三人はそれぞれの想いで見ていた。
街並みを少し離れると、岩影から白い砂浜が見えてきた。あれだけの大津波にあったというのに、この浜辺は何一つ変わることなく広がっている。
アヴィにとってこの浜辺は、幸福と絶望の象徴とも言えよう。しかし、過ぎ去りし時は、やがては美しく輝くものである。
「マリー…。」
浜辺に立ち、アヴィは堪え切れずに涙を流した。その右横には、マリーの姉としてのアイリーンがヴァイスローゼンを持って、また左横には、アヴィの友人としてのクルトが寄り添うように立っている。
先ず、アイリーンが波打ち際まで歩み出て、手にしたヴァイスローゼンを光たゆとう波間へと投げた。
「我が妹、マリーへ…。私と、あなたが唯一愛した殿方より捧げん。海よ、マリーの魂を安らけくし、神の祝福を齎し給え。来るべき日、また懐かしき姿にて見えんために…。」
それは、海で没した者への祈りであった。アイリーンの瞳からもまた、涙が零れ落ちていた。
アイリーンの祈りが終ると、次はクルトがその波打ち
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