間章V
たゆとう光
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伯爵のその言葉を聞き、アヴィはハッとして顔を上げた。伯爵はそんなアヴィに微笑み掛けていた。
「旦那様…。」
「その“旦那様"は止めにしよう。僕のことはクルトと呼んでもらいたい。な、アヴィ。」
伯爵は未だ不安げなアヴィを見て苦笑いしている。それは友への気兼ねない素振りであり、アヴィはそれに気付くと安堵して、やっと笑みを見せたのだった。
「旦那…いや、クルト様。貴方様は私の命の恩人であり、私を助け職を与えて下さった伯爵様であり、そして、私のかけがえのない友人です。確かに、私は幸福です。それでは、一つのお願いをお聞き下さいますか?」
「ああ、言ってみろ。君はそれだけの働きをしたのだ。遠慮は無用だよ?」
「では…」
この後に語られたアヴィの願いに、伯爵は大層驚かされた。だが、その願いは伯爵によって快く承諾され、アヴィはそれから二月の後、伯爵の館を去ったのであった。
アヴィがクルトに伝えた願いとは…。
「いらっしゃいませ。あ…クルト様!この様な場所へ来られずとも…。」
「いや、君がどうしてるかと思ってねぇ。どうやら繁盛してるようで良かったよ。君が王都で生花店を開きたいなんて言うから、こっちはどうなるかって心配したんだぞ?」
そう、アヴィはこの王都プレトリスで生花店を開きたいと申し出たのである。両親と営んでいた酒屋ではなく、場所も故郷のロッツェンではなく…。
「クルト様、そんなに私のことが信用なりませんか?」
「そうじゃなく、君は王都になんの縁もないからさ。それがいきなり王都で、それも生花店ってのはねぇ…。大変だったんじゃないのか?」
クルトはさも心配そうにアヴィを見た。だがアヴィは、そんなクルトに向かって笑いながら答えた。
「それは大変でしたけど、この街の方々はとても親切で、開店時には手伝って頂いた方も大勢います。それに、今では定期的に通ってくれるお客様もおりますし…あ、いらっしゃいませ!」
アヴィは話を中断し、入ってきた客へと挨拶をした。いつも来店しているシュターツ夫人であった。
アヴィがシュターツ夫人の接客に行くと、クルトは何気無くその夫人へと視線を向け、夫人を見るなり目を丸くして叫んだ。
「シュターツ侯爵夫人ではありませんかっ!」
クルトの声を聞くや、彼女はビクッと体を硬直させ、徐に声のした方へと振り返った。
「あ…あの…どちら様…」
「惚けても無駄ですよ?ご主人であるミヒャエルとは長い付き合いですからねぇ。つい先日も伺ったばかりじゃないですか。」
クルトは半眼でシュターツ夫人を見ている。
アヴィは何が何だか解らず、首を傾げながらクルトに言った。
「クルト様?この方は確かにシュターツ夫人ですが…まさか貴族の御夫人がこの様な…」
「いいや、この方は歴とした侯爵夫人だよ。」
きっぱりと
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