間章V
たゆとう光
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たので、伯爵は直ぐ様供の者に館までアヴィを運ばせ、彼を医者に診せたのであった。
さて、アヴィは一月後には体調も回復し、机の上ではあるが仕事を始めていた。アヴィが世話になるだけではならぬと、伯爵に仕事はないかと頼み込んだのである。
幸いにも、アヴィは読み書きや計算が出来たため、伯爵は喜んで仕事を与えた。アヴィは既に帰る家も失っており、その上、伯爵の館では人手が不足していたため、伯爵にしてみれば願ったり叶ったりであった。
アヴィは伯爵の好意を無にしないため、懸命に仕事へと取り組んだ。時にマリーや家族のことを思い出し、涙を溢しそうになることもあったが、それを忘れようとするかのように仕事へと没頭していたのである。
彼は伯爵が思った以上の働きぶりを見せ、助けられてから九ヶ月後には、アヴィは正規の執事として月金貨二枚で雇われるようになった。
それから月日が経ち、ある時アヴィは伯爵に呼ばれ、彼の私室へと向かった。
コンコンッ…
「アヴィだね?入りなさい。」
「失礼致します。」
アヴィは伯爵に招かれて中へと入った。
「旦那様、何かご用でしょうか?」
「アヴィ。君がこの館に来てから、もう二年もの月日が経った。君の故郷であるロッツェンも復興し、戻ることも可能になったよ。そこで聞きたいのだが、君はどうしたい?」
伯爵に突然そのようなことを言われたので、聞かれたアヴィは慌てふためいた。
「旦那様、私目に何か不手際でも御座いましたか!?」
「いやいや、そうじゃないんだ。君だってまだ若いのだし、どうしたいかと思ってね。元来、執事はもう少し高齢の者に任せるものなんだし、君にはもっと自由に生きてほしいんだよ。こんな小さな箱の中じゃなく、もっと多くの人々と触れ合ってほしい。」
それは、あの大津波で人生を狂わせたアヴィの心を、まるで見透かしたような言葉であった。
事実、アヴィは人と触れ合うことを極端に恐れている節があった。それ故、伯爵はアヴィに表へと出ることを勧めたのである。
伯爵自身の心を言えば、アヴィをずっと手元に留めて置きたかったが、それではアヴィの力を削ぐことになりかねないと考えたのである。
しかし、当のアヴィはそれとは気付かず、ただただ恐れていたのであった。この館から追い出されるのではないかと…。
不安げなアヴィを察し、伯爵は話を続けた。
「アヴィ、よく聞くんだ。僕は君のことを友と思っている。だからファーストネームで呼んでいるんだ。これは友からの言葉だと思ってほしいんだよ。」
伯爵はそこまで言うと、窓から晴れ渡る空を眺めて続けた。
「確かに、君は恋人も両親も、そして住む家も失ってしまった。しかし、君は生きている。それは、君が何かをせねばならない証であり、これから出会うべき者がいるということなんだよ。」
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