間章V
たゆとう光
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付いていた。たとえ水嵩が膝ほどでも、その波に捕まれば一溜まりもない。それを知らぬ者は、それで死ぬしかないのである。それが自然の驚異というものであろう。
だが、マリーはその恐ろしさを知っていた。一度だけ、旅行先で津波の直撃にあい、危うく命を落としかけたことがあるのだ。しかしその恐怖さえ、愛しい人への想いの前には意味を成さなかった。
「アヴィ!アヴィ!」
マリーは彼の名を呼びながら、到頭山の入り口まで下ってしまった。津波は、もうそこまで迫っていることも知らずに…。
その時、遠くからマリーを呼ぶ声がした。
「マリー!直ぐに山へと登るんだ!走って、走ってくれっ!」
それはアヴィだった。マリーはその声を聞いてホッとしたが、それも束の間。直後に大きな地響きが轟いたのである。
津波が街を呑み込む音であった。
アヴィとミッケルはマリーを捉えると、そのまま山頂へと駆け出した。だが、人の足よりも津波の速さは勝り、その波はあろうことか山頂目指す三人を容赦なく呑み込んでしまったのであった…。
津波から二日後、アヴィは全身の痛みで目を覚ました。
「君、大丈夫かい?」
そこには見知らぬ青年がいた。周囲を見渡してみても、アヴィに見覚えのあるものは一つもなかった。どうやら、アヴィはこの青年に助けられたようである。
「傷の手当てはしてある。もう少し休め。」
青年の言葉にアヴィは再び目を閉じかけた時、急に全ての事柄を思い出した。
「あ…あぁ…!マリーは?マリーはどこにいるんだ!?」
そう叫んで起き上がろうとしたアヴィは、頭に激痛を感じてそのまま倒れ、目の前の青年に怒鳴られた。
「休めと言っただろうが!君はそんな躰でまともに動けると思っているのか!?」
そう言われたアヴィは、ふと自らの躰を見ると、躰中包帯だらけであり、足には骨折用の固定具が付けられていたのであった。
「全く…あの大津波に呑まれて折ったのは右足だけとはな…。大した強運だ。しかしな、この街に流れ着いたのは君だけなんだよ。残念だが、他にはいなかった。」
アヴィは青年の言葉を聞き、絶望に打ちのめされた。最愛の人はもう、この世には居ないのである。
それからすぐ、アヴィは躰の痛みに耐えかねて、そのまま深い闇へと意識を落としたのであった。
アヴィを助けたこの青年、名をクルト・ヴァン=フレミングと言い、ロッツェンから西へ四つ程街を挟んだところにあるリリーという港町を治める伯爵であった。
地震のあった翌日、伯爵は海岸沿いの被害を視察すべく出向いていた。
この街の海には沢山の小島があり、それが防波堤の役割を果たして大した被害はなかった。そして視察を切り上げようとしたその時、アヴィが打ち上げられていたのを発見したのである。
最初は死体かと思って近付いてみたら息があっ
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