間章V
たゆとう光
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ない話をするのが二人とも好きだった。
「アヴィ…。結婚したら私ね、あのお店でヴァイスローゼンを作って、旅人達に渡したいわ。無事に故郷へと帰れるように。愛しい人の元へと戻れるようにって…。」
「マリーらしい…。この間聞いた神父様のお説教だよね?それは良いアイデアだと思うよ。きっと皆も喜ぶんじゃないかな。」
マリーの言葉に、アヴィは笑って答えた。そんなアヴィにマリーは抱き付き、淡い月明かりの下、そっと口付けを交わした。
「ありがとう、アヴィ。私、あなたがいてくれて良かった。姉さんは貴族の方に見初められて、遠いところへ行ってしまったし…。」
「またその話かい?君には兄さんが二人もいるじゃないか。」
「そうだけど、兄さん達じゃ女心は分からないんです!」
そうマリーが言うとアヴィは目を丸くしてそれから大笑いし、そんな彼をマリーは少しムッとして見ていたが、途中から一緒になって笑い出したのだった。
全てが幸福であった。毎日が充実し、そんな日々が永久に続くものだと信じて疑わなかった。
アヴィもマリーも、そして…この街に暮らす全ての人々も…。
だが、その想いを嘲笑うかのように、それは突然訪れたのである。
その日は静かであった。波も穏やかに揺れ、水面には初夏の陽射しが乱反射していた。
この日、アヴィとマリーは共に連れ立って、いつもの浜辺へと来ていた。店の方はあまり忙しくなかったため、両親はアヴィに久々の休暇を与えたのだ。
未来の娘になろうマリーに気を使ったようでもあるが、二人は久々の休日を楽しもうとランチを持って、その小さな浜辺へと来たのだった。
浜辺に着いたマリーは大はしゃぎし、素足になって海へと入った。
「マリー。君も一応はお嬢様なんだから、もう少しお淑やかにしないと…。」
そう言って苦笑するアヴィに、マリーは睨み付けたかと思うや波を蹴り、海の水を浴びせ掛けた。
「冷たっ!」
海水を掛けられたアヴィはマリーのところへ行くや、手で海水をすくってマリーへと掛けた。
「冷たっ!」
それから二人は、まるで子供のように水を掛けあい、そして笑いあった。
太陽の光は燦々と降り注ぎ、心地好い風が二人の間をすり抜けて行く。
アヴィとマリーは浜辺へと座り、暫くは寄せては返す波を眺めていた。
「アヴィ。私、このたゆとう海の光が好き。あなたと結婚して子供を産んで、そしてお婆ちゃんになるまで…ずっと、この海の輝きを見ていたいわ…。」
それは、これから送る未来への希望であった。
アヴィはその想いを聞き、マリーの横顔を見ながら答えた。
「幸せにする。君がこの海をずっと見てられるように…。俺、一人前の店主になるから。君はヴァイスローゼンを、訪れる旅人のために作りながら俺の…」
その言葉は、途中で切らざるを得なかった
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