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フロンティアを駆け抜けて
幽玄なるチャンピオン
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えた声も彼のものだった。でもジェムにはまるで別人のように聞こえた。今のダイバはジェムの前でバトルしていた時より、ずっと真剣で敵意に満ちていたから。
 地面に体をぶつけながらも、その摩擦を利用してメタグロスは鉄爪を研ぎ澄ましてから腕を振り上げ、メガジュペッタに叩きつけようとする。だがそれもやはり虚しく空を切った。が、それだけでは終わらない。

「やれ、メタグロス。『バレットパンチ』」
「くっ……!?」
「お父様、逃げてッ!!」

 ダイバの声の調子から咄嗟に気付いたジェムが、思わず叫び声を上げる。ジェムの父親もその意図に気付いて咄嗟に躱そうとする。メタグロスの腕は一見体とつながっているようだが実際には電磁力によって動かしているので、体から分離することもできる。それを利用してメタグロスは高速の拳を放った。狙う先はメガジュペッタではなく、敵意をさらけ出すように向けるチャンピオンへと。ジェム自身その身に浴びた拳の威力は大の大人であろうと耐えられるものではない。回避に優れたポケモンならともかく、あくまで人間であるトレーナーに避けられるはずもない。間に合うわけがないなんてわかっていても、ジェムは父親に向かって駆け寄ろうとする。しかし当然、それよりずっと早く鉄の拳はチャンピオンの体を打ち抜いた。

「お父、様?」

 目の前で父親の体が拳に襲われるのを見たジェムが茫然自失の呟きをする。ジェムの父親は、拳が当たると同時に消えてしまった。数日前自分が受けた痛み、ここに来る前に聞こえた激突恩が例えようもない不安となってジェムを襲い、あたりを見渡す。姿がどこにも見えない。声も聞こえない。ダイバとアルカも、消えたチャンピオンに目を見張る。



――――パチンッ!!


 
 突然響いたのは、メガジュペッタが鋭く爪を鳴らした音だった。その場すべての人間の視線がメガジュペッタに注がれる。逆に言えば、この数秒間は誰もメガジュペッタの事を見ていなかった。それはダイバとメタグロスにとって致命的な隙だった。いつの間にか、としか形容できないほど自然なほど、メタグロスの手足4つは呪いの釘を刺されて磔になっている。メタグロスは必死にもがいているが、動けない。

「たった数日前に会ったのに随分に久しぶりに見えるな、ジェム。まずはシンボル獲得おめでとう」

 相手のポケモンの動きを封じた状態でチャンピオンが行ったのは、ジェムの両肩に背中から大きな手を置いて、自分の娘に褒め言葉をかけることだった。ついさっき鉄腕の暴力にさらされたことなど微塵も感じさせず、まるで串刺しの箱から脱出する魔術師のように悠々と。いや幽々とメタグロスの拳を躱していた。

「お父様……」

 ここに来てから父親にかけてほしかった言葉が聞けたのに、ジェムは笑
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