MySword,MyMaster
Act-1
#4
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った。より正確には、そんなものは必要が無かった、というのが正しい。
グレーシャは戦場で生まれた。国は知らないとのことだった。八歳の時までそこで暮らしていたが、閉鎖空間であったが故に、一切の情報は分からなかったらしい。
親のどちらかは日本人だったと聞く。顔も見たことが無いため、人づてで聞いたことでしかないらしいが。確かなことは二人とも魔術師で、傭兵として雇われていた父と、戦争奴隷として駆り出されていた母だった、ということ。
グレーシャもまた、戦奴となる運命だったのだと思う。特に女性の戦奴の末路は悲惨なもので、母もグレーシャが生まれたことさえ知らなかった可能性まである、と語っていた。
グレーシャが戦場に駆り出されなかったのは、銃器を扱う才能も、肉体を使っての戦闘の才能も、魔術を使っての戦闘の能力も無かったが故。今はどれもある程度(というか僕の主観としては超一流の域で)こなせるが、それらは全て彼女の魔術系統や戦闘術適正をきちんと整理し、適切な方式で訓練を施してきた現代円卓騎士団の人々のおかげ……らしい。当時は、まるで役に立たない存在だったそうで、察処分されなかったのは、それでも魔術回路を有していたからだろう、と、かつて父さんは僕に語った。
しかしグレーシャは、幼い母胎として利用されることもなかった。快楽の道具として使われることも無かった。もっと優秀な母胎がいたのか。理由は、良く分からない。
何にせよ、グレーシャはあの禍の中に在って、奇跡と言っていいほど清らかなまま、存在した。
僕が名も無い彼女に名前を付けるように依頼され、『雪華』という名前を付けたのも、それが理由。
***
何の曇りもない、自分。裏を返せば、全くの『空』な自分。
そんなグレーシャを変えたのは、自分にその名前を付け、自分を助け、そして自分に手を差し伸べてくれた、裕一を護る、という意思。彼への恋。
崩れゆく故郷を無感動に眺め、ああ、ここで私も死ぬんだな、と、やはりこれも無感動に悟った時に、たった一人で現れて、『こんなところに居ちゃだめだ!』と、丸でこちらの事情も理解しないままにやってきた、黒い髪の男の子。しばらく前に傭兵としてやってきた奇妙な集団の中に一人だけ混じっていた、自分より少し年上くらいの彼が、どうしてか、そこに。生まれて初めて、彼女を『出来損ないの母胎』ではなく『一人の人間』として見てくれた、彼。
その手に、黄金の剣を握って。光の奔流で、落下してくる瓦礫や、ふさがれた退路を焼き尽し。小柄なのに、とてもその身からは想像できない恐るべき揚力でもって幼い自分を抱きかかえると、倒壊する故郷の街を、物の数分で抜け出して、郊外まで飛び出した。
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