第三十二話 太子の焦燥その十二
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「変わりません」
「そうですか、しかし」
「お姉様はそうではなかった」
「私にとってこの二つは絶対でした」
側室の子であること、旧教徒であること。この二つのことはというのだ。
「どうしても変えられないものでした、ですから」
「私達ともですか」
「交わらず今まで一人でいました」
そうしてきたというのだ。
「貴女達、特に貴女を見るのが怖くて」
「その様なことを」
「私をどう見ているのか、そう思うと」
「怖かったのですか」
「そうでした、しかし貴女をそれでも見ていました」
怖れながらもだ。
「だからこそわかります」
「私ならですか」
「私以上に多くのものを広く遠くまで見られて」
マリーを見て言うのだった。
「そして多くのことを知っていて多くの人が周りにいますから」
「だからですか」
「はい、貴女ならばです」
まさにというのだ。
「この国を預けられます」
「それでは」
「若し私に何かあれば」
「その時は」
「貴女にこの国を委ねます、そして」
マリーにさらに言った。
「幸せに」
「結婚のことですか」
「これまで遠く離れていましたが」
「それでも」
「貴女もセーラやマリアの様に」
「夫を得て」
「そのことからも幸せになるのです」
妹もこうも言ったのだった。
「いいですね」
「はい」
マリーは姉の言葉に確かな顔で頷いて答えた。
「それでは」
「約束です、そしてお子をなして」
「エヴァンズ家も」
「栄させて下さい」
「これまで以上に」
「そうされて下さい」
「わかりました」
マリーはマイラのこの言葉にも頷いて答えた。
「それでは」
「お願いします、私は今は黄昏の中にいる気持ちです」」
遠くを見る目だった、この時も。
「ですが貴女は朝の中にいます」
「朝ですか」
「朝日の様にこの国を導かれて下さい」
こう妹に言うのだった、そしてだった。
二人はこの時はこれで別れた、マイラはこの日から次第に休むことが多くなりだった。夫である太子に対しても。
夜に床を共にすることがなくなっていた、太子はこのことをマイラの側近であるオズワルト公と司教に話した。
するとだ、二人もこう言った。
「マイラ様はどうも」
「近頃特にです」
「お身体が優れず」
「そのせいで」
「そうだな、それはな」
太子も二人に応えて言う。
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